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【ロック少年・青年・中年・老年小説集】「中年からのバンドやろうぜ1…〈肥満とブルーズ、減量とロック⑭〉~ばんどやろうぜ、再び3~」

バンドの練習テープを持ち帰り、ユキオはうちで聴いてみた。

久しぶりに入った割には音は鳴っていたことがうれしかった。
しかし、バンドとしては、どうにもならない感じではあった。

U2のバッドやプライドなどもやっているが…楽譜をみながら、ドラムのFも自分のギターでやっていて、高校生の軽音楽部の放課後練習のようで、ほほえましくはある。

だが、バンドとしては見込みはないなあ…ユキオは興味が少し失せていくことを感じていた。

「Fはいいんだがなあ…i君はなあ…」

延々マイウェイのヨーロピアンサン的ギターを繰り返すだけで、
ストーンズの悪魔を憐れむ歌も、よくわからないアドリブで、
ミックテイラーをまねてリードをとったりしたユキオだったが、
その間もツインリードでギターソロしかなく、
Fのドラムに合わせてはいても、
それが悪魔を憐れむ歌だとは、
テープを聴いた人間の9割は「わからない」と解答するであろうことは
確実であった。

I Am the Resurrection / THE STONE ROSES
を生意気にやってはみたが、i君がじゃまであった。

オアシスのロックンロールスターをやってもみた。

お手上げだった。

まあ、原曲がわかるものといえば
サンデーモーニングに僕は待ち人ぐらい。
あとは、Aを基本としたセッションくらいで、
それもi君がいいプレイをしているわけでもなく…
単にFのドラムがいい音を出しているのと、
ユキオのギターコードがよく鳴っている部分くらいしか
みるべきものがない。


i君が入ると、Whoやスモールフェイセズ、
橋の下や珍奇男などのバンドのレパートリーはできない。

Sの脱退で、ボーカルがいなくなり、
ユキオかi君が歌う話があるが、
どちらも歌いながら弾けない(笑)。
笑うしかなかった。


Fとはアパートが近いので、
別の日に一緒にご飯を食べに行った。
その後、Fのマンションに行き、
二人でギターを弾いた。

ES335を中古で買ったので、
弾かせてもらった。
チューニングが壊滅的で、
楽器屋での調整が必要だった。

結局ユキオのギターをFが弾く。
結構むかしよりうまくなっていた。
指力の強い音で、なかなか面白い。

ユキオはFと会わなかった数年の間に
マスターしていたレパートリーを弾いた。
スイートホームシカゴも通して弾けるようになっていた。
サムピックやボトルネックも簡単なものは弾けるようになっていた。

Fは驚いていた。

「いつの間にスライドギターとか覚えたんですか?」

ライトニンホプキンスのテイクミーバックベイビーとかを弾く。
なんちゃってラグタイムブルーズをいくつか弾いた。
なんちゃってブラインドブレイクやブラインドボーイフラーや
さらになんちゃってロバートジョンソンやサンハウス…

小出斉、吾妻光良、
ステファングロスマン、打田十紀夫の教本などで覚えたものだった。

「どうやって弾くんですか?
いいなあ、おれにも教本貸してください」
「やだよ。買えよ。副社長だろ?」

バンドの話になった。

「i君はさあ、ルックスいいし、性格もいいから好きだけどさ、
やっぱりバンドのギタリストとしては力量不足だよな」
「まあ、そうですね。おれがギターやります」
「だれがドラムやるわけ?」
「i君がやればどうですかね?」

あきれたユキオは、力よわく答えた。
「Fさあ…おまえのドラムとおれのギターがあって、
やっとなんかの曲だってわかるレベルになってるわけよね…」
「この際、新メンバーを入れましょう。
募集かけるとか」

ベースの心当たりがユキオにはあった。

「…zちゃんっていうプログラマーの仕事してる知り合いがいるから…
今度誘ってみるよ。Fさあ、なんかいいメンバーいたら誘ってみてくれないか?」

「そうですね。わかりました。とりあえず、
来週i君がもうスタジオ押さえてますんで、
土曜日夜お願いします」

zちゃんを誘ってみよう。
ドラムとベースにリズムギターがちゃんとしてれば
あとはなんちゃってボーカルギターをi君にやってもらう…
ユキオはそんなことを考えていた。