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【ロック少年・青年・中年・老年小説集】「中年からのバンドやろうぜ1…〈肥満とブルーズ、減量とロック⑨〉~気功教室とロックふたたび3~」

修了式で、ユキオは表彰をうけた。
男女両名の優秀成績者…
もちろん、体重が減ったということであった。

中国の切り絵細工の素晴らしい作品であった。
最後のレッスンのあと、講評があって、
修了した人の特典の減量の仕方の講義があった。

アトキンズ式ダイエットだった。

いまでは、知られるようになり、
浸透したが…当時はまだ流行の前の時期で、
コロンビア大学教授のアトキンズ氏が研究したデータは、
詳しいものは簡単には手に入らなかったと思う。

メモをとりながら、ユキオは、
これは「ビバリーヒルズダイエット」で知られる、
例の教授か…と思った。

ずっと以前に読んだやすっぽい本の内容より、
科学的で内容は濃かった。

要するに、低炭水化物ダイエットで、
タンパク質をとり、野菜をたくさん食べ、
その代わりに、コメやパンなどを食べないということであった。

豆腐はどうかと思っていると…
痩せるまで、豆腐などの大豆製品はとらないほうがいいという話だった。


ジャガイモも推奨しない。
講義記録を家で精査してみると、
低GI値の食品に加え、
さらに炭水化物を控え、
糖質補給を野菜で行うというものであった。


ユキオは、さっそくその日の夕方から、
低炭水化物、低GI値の食品をとるという、
ダイエットを始めた。

大豆製品のことは、痩せたらいいということだったので、
BMI値も中央値よりも下回っていたので、
納豆の習慣は腸環境のことを考えて継続することにした。


麗蘭瘦身気功には、その後通わなくなってしまった。
ナサで開発されたという、
周波数をかえて、それぞれの体の患部を治療するという、
あやしい機械をやっていて…それをうけてみたが、
その教室で知り合った女性が、
受けたあとに不調になったことも、
なんだか疑うきっかけになった。


決定打があった。
これは、知り合いの女性の知り合いの生徒さんの話だ。

ある日の講義のときに「紫外線のUVはなんの略か?」
と数人の生徒に当てたことがあったそうだ。
2人が答えられなかったので先生は、
「アンダーバイオレットだよ」
といったらしい。

もちろんウルトラバイオレットなのだが、
そういう間違いは結構ある先生であった。


とはいっても、
気功の腕は確かであった。

なぜなら、ユキオは近頃気功の最中に丹光(タンコウ)とよばれる
光が見えるようになったからだ。
光はそこまではっきりは見えないが、
点滅したり、渦を巻いたり、近づいたり離れたり、
上昇してくる光を感じることもあった。
イメージで頭の上に、太陽のような光があると、
感じるようにもなった…
それをインチキとは呼べないと思った。
内面の変化をもたらしてくれたのは、
あの気功教室であることに間違いはなかったのだ。

第一に、心地よくなるのだ。
それがなによりの真実であった。


これだけの気功術をマスターできたユキオは、
なんの不満もなかったが…
めまい症を完治させたい気持ちもあり、
ナサ開発の機械を信じてみたい気もしたのだが…

幸い、節制と減量、
気功の習慣によってめまい症はよくなった。
潮時と感じて、
ユキオは、麗蘭瘦身気功を去った。


ユキオは、さらに痩せた。
教室終了時から、さらに4キロほど痩せた。
大学時代と同じまではいかないが、
バンド時代の体重を下回った。
ユキオは、その自分の姿を気に入っていた。

肉食が増えたせいなのか、
筋力も戻ってきていた。


ユキオにすこしずつ変化がおとずれていた。

ささいなことだが…
ずいぶん久しぶりに、
中古ブランド服の店で、
ユキオは、えんじ色のレザーパンツをみつけて衝動買いをした。
グラムロックのミュージシャンが着そうな
白のウールのジャケットも一緒に買った。

数日後に、なんだか衝動が
止まらなくなって、
チャイハネなどでそれまで着られなかった、
サイケなシャツやパンツを立て続けに買った。
ずっと太っていたせいで…ファッションをたのしむという、
そういうことすら忘れていたことに、
いまさらながら気づかされたユキオだった。

「ステージで似合いそうな服だな…」
そう感じていた。
新しく買った服を着て、
ギターを立って弾いた。
風呂場の鏡に、そのまま歩いていき、
自分の姿をみて、感慨にふけった。

ユキオは在宅校正で家にいる時間が増え、
単純作業のときには、
時々ラジオをかけることがあった。
その時に、ユキオはある曲と出会う。


くるりの「ロックンロール」であった。


何かが大きく、自分の中でわきあがってくることを感じた。


くるり…ロックンロール、
アンテナというアルバムが出たときいた。
すぐに、タワーレコードに行き、
アルバムを買った。


ロックンロールとハウトゥゴーを繰り返しきいた。
いてもたってもいられない…
ユキオはふたたび
音楽のそばに自分がもどってきたことがわかった。