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memento

海に行きたい。

そう言えば、外に出るのが好きだった。
そんなことを忘れていた。
私はやっと思い出した。

潮の匂いを肺いっぱいに詰め込んで、
波の往来をただ眺めていたい。

いや、本当は泳いでいきたい。
まだ見たこともないものを見るために。

対極の感覚を同時に感じる時
身体が大きく分裂するように感じる。

得る 失くす
拾う 捨てる
死ぬ 生きる

自分から、また別の自分が
1枚、また1枚と剥離するよう。

剥離して、海風に煽られて私は舞い上がる。
一方の私は静かで、一方の私は危うい。
私が私を見ていて、そして私は見られている。

この感覚は何だろう。



そうして、慌てたように
今こそ自分の言葉を使わなくては、と思う。

それは誰かの二番煎じではいけない。

身体の芯から抽出した、
鉛よりも重たい原液。
悲しいぐらいに切実な一滴。

ものごとを言葉にしておくことを、
続けていてよかったと思うのは、
悲しかったり寂しかったりする時で、
あの時に自分が何を考えていたのか、
あの時に自分が何を思っていたのか、
きちんと自分の言葉で残してあることが
ある意味での救いだったりする。

正しいと思っていたものは
間違いではなかった。
愛おしいと思っていたものは
確かに素晴らしかった。

その事実が全てだ。

ほら、
きちんと、
全身で思い出せ。

しかし、やはり
素敵なものは、
大抵は誰かのものだ。

私は誰のものにもならずに、
お腹を空かせて
空想ばかり見ている。

素敵なものに
なりたかったなあ、本当に。

時折やってくる猛烈な不和には
口角を目一杯上げることしかできず、
その鋭い角度に自ら辟易している。

極彩色のリアルが眩しい。
生き死にに限らず、世界は眩しい。
その現実だけが全てだ。

それだけでいい、
本当のところは。


渡部有希

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