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食品卸売業の現状と課題〜M&Aの活用で廃業の危機を乗り越える〜

こんにちは、M&Aガイド事務局です。今回は食品卸業のM&Aについてです。

食品卸売業に属する企業は、食品の生産者などである企業(メーカー)と、スーパーやレストランなど、食品の販売先となる企業の中間に位置しており、その双方をつなぐパイプ役を担っています。生産者と販売先の中間において生じる様々な業務(物流/在庫/決済など)を、食品卸売業に属する企業が一括して代行することによって、人件費や物流費等の取引コストを削減することで、私たちが日頃手にする機会の多い食品の安定的な供給を支えています。つまり、食品卸売業に属する企業は、食品流通をスムーズに、商品を効率的かつ安定的に供給する役目を社会において担っているのです。

新型コロナウイルスの世界的な感染蔓延を受けて、食品卸売業に属する企業は大きな打撃を受けました。日本では緊急事態宣言による外出自粛の動きを受けて、飲食店が軒並み休業となり、食品卸売業に属する企業もそれに伴って食品の卸先が無くなったことが、業績悪化を招きました。その結果、食品卸売業に属する企業の多くが廃業の危機を迎えています。

今回は、そんな食品卸売業全体の動向を踏まえたうえで、M&Aを活用した生き残り戦略について説明していきます。

食品卸売業の現状

食品卸売業の現状について、東京商工リサーチの調査結果に基づいて説明していきます。この調査結果を確認することで、依然として食品卸売業が厳しい状況に置かれていることを確認します。

食品卸売業における直近の倒産件数

飲食料品卸売業倒産 月次推移 出所: 東京商工リサーチ

2021年上半期(1-6月)の「飲食料品卸売業」倒産件数は106件となりました。この倒産件数は、前年同期と比較すると22.6%減となり、2年ぶりに減少したかたちとなります。つまり、2021年上半期においては倒産件数が少なくなったと言えます。

しかし、このことが直ちに食品卸売業に属する企業が危機を乗り越えたことを意味するわけではありません。倒産件数が少なくなったのは、コロナ関連の資金繰り支援が功を奏したからです。コロナ関連の資金繰り支援は今後も継続されるものの、これが永続するわけではありません。実際、上半期の倒産件数は1992年以降の30年間で最少の結果となっているものの、この結果はコロナ関連の資金繰り支援によるダンピングの結果であると理解できます。

2021年6月の倒産件数は、27件と急増しており、この水準は2020年8月以来、10ヶ月ぶりに月間20件台に乗せたことになります。コロナ禍の長期化で業績回復が遅れ、資金繰りに苦しみ始めている企業や、いつまで続くかわからない自粛ムードに、息切れする企業も出始めているのが現実です。新型コロナ関連倒産の構成比は2021年4月から3ヶ月連続で35.0%を超え、上半期では31.1%となるなど、予断を許さない厳しい状況が続いています。

結論として、飲食料品卸売業の倒産は2021年度の上半期は過去30年間で最少を記録したとはいえ、長引くコロナ禍で飲食業の不振の煽りを受け、企業を取り巻く事業環境は極めて悪化しているということになります。

食品卸売業における業種細分類別倒産状況

図表2: 食品卸売業における業種細分類別倒産状況 出所: 東京商工リサーチ

図表2で示している『食品卸売業における業種細分類別倒産状況」を確認してみると、食品卸売業のなかでも、特に倒産が多い業種を絞り込めます。業種細分類別に考えてみると、2前年度と比較したときに倒産件数が最も多い割合を占めたのは「果実卸売業」で、5件の倒産がありました。この結果は、前年の同期と比べると400%増えたことになります。つまり、5倍もの数になっているということです。

コロナ禍の巣ごもり特需によって、小売店向けなど一部好調な食品卸売業に属する企業も散見されるものの、度重なる時短営業・休業要請や酒類提供の停止によって、主として飲食店向けを中心にした企業は厳しい状況が続いています。また、業界全体の動向として、前年と比べて20%も負債額が増えています。このことは、食品卸売業に属する企業の資金繰りを悪化させる可能性があるため、今後、安全性が問題となりうることを示唆しています。

果実卸売業の次に前年同期と比べて倒産が多かった業種は、茶類卸売業でした。茶葉卸売業の倒産件数は6件であり、これは前年同期比の200%増となります。この他にも、「砂糖・味そ・しょう油卸売業」が2件で100%増となり、「牛乳・乳製品卸売業」が2件で同100%増、「菓子・パン類卸売業」が12件(同71.4%増)で増加傾向にあることがわかります。

食品卸売業の課題

ここまでで、新型コロナ禍における食品卸売業の現状がみえてきたと思います。端的に、食品卸売業に属する企業の業績は極めて厳しい状態にあることがわかったのではないでしょうか。新型コロナ禍によって、将来の見通しもなかなか立たない厳しい状況下において、高齢化が進んでいる食品卸売業は消滅倒産している企業も少なくありません。食品卸売業に属する企業の倒産ケースのなかには、中堅規模の倒産も多くなっていますが、先行きの厳しさから事業継続を断念するケースも多く、廃業に至るケースもかなり多くなっています。

こうしたことを総合的に考慮すると、食品卸売業界全体の事業環境は今後も厳しいと言わざるを得ません。したがって、今後、食品卸売業に属する企業の事業再編が次々と進んでいくと考えられます。その結果、食品卸売業に属する企業の統廃合が進むものと考えられますが、その際に検討しておかなければならないのはM&Aの活用による事業継続の可能性です。

食品卸売業におけるM&Aの活用

食品卸売業に属する企業は、前に説明したように様々な要因で廃業に危機に瀕しています。新型コロナ禍では、政府による支援策のおかげで盛り返したようにみえているものの、実際に支援策がなくなれば、業界全体の市場規模が少なくなった事業環境化での生き残りをかけた競争はより一層激化すると考えられます。

こうした事業環境下においては、M&Aを積極的に活用することが重要です。経営者の高齢化によって事業を畳む企業が少なくない食品卸売業では、近年、M&Aを活用した事業承継が盛んに進められています。中小企業を支援している中小企業庁もM&Aを活用した事業承継を積極的に推進しており、様々な支援策も提供されています。自社に有効的にM&Aを活用するには、まずはM&A専門家へ相談すると良いでしょう。

おわりに

食品卸売業に属する企業の業績は、新型コロナ禍による政府の支援策により一時的に安定しているようにみえるかもしれません。しかし、この支援策はいずれ無くなるものです。どんなに一定期間延命できたとしても、それが永続するわけではないことをきちんと理解しておかなければなりません。そのうえで、今後の食品卸売業に動向を考えると、競争が活発になることが予想されます。したがって、業界の再編が進むと考えられます。

食品卸売業に属する企業は、そうした事業環境に晒される前に、きちんと生き残りのための戦略を考えておかなければなりません。この記事では、M&Aによる生き残り戦略の可能性を示しました。M&Aを活用すれば、廃業に追い込まれそうな企業でも、今後、事業を継続できる可能性が高くなります。食品卸売業に属する中小企業経営者であれば、5年後、10年後の自社が置かれる事業環境についてよく考え、事業の継続性を事前に検討しておくことが重要です。


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