まごうことなき凡人

日々、つらつら小説を書いています。 今は迷走中にて、今まで書いたものをまとめて電子書籍…

まごうことなき凡人

日々、つらつら小説を書いています。 今は迷走中にて、今まで書いたものをまとめて電子書籍を制作、販売中。

最近の記事

ホラー短編集「人の世も鬼に食われてばかりではない」

私は気弱な性格で、人からの頼みごとをなかなか断れない。 おかげで会社では、誰もやりたがらない仕事を押しつけられがち。 今は生き地獄のような部署に手伝いに行かされている。 この部署を支配するのは裏の通称、鬼課長。 いろいろ厄介な面があるのだが、なにより、仕事を教えず、そのくせ部下がミスをすると精神崩壊するまで叱責するという、究極に理不尽なふるまいが目に余る。 反抗的でないからか、わたしはあまり目の敵にされず、でも、やはり鬼課長との仕事の心労はひどい。 昼休み休憩が済み、ため息を

    • ホラー短編集「現代よろず妖怪物語③」

      「狐火を追いかけて泣く男は愛を知らない」 【狐火(きつねび)】 原因不明に火の気がないところで提灯や松明のように灯る火とされ、ヒトボス、火点し(ひともし)燐火(りんか)とも呼ばれている。 春から夏にかけて見られ、蒸し暑く陰鬱な日に出現することが多い。 出現するのは人気のない場所だったり、逆に人を追いかけてくることも。 鬼火の別称という説もあるが、別物として扱われれている。 俺の地元の婚礼の義はすこし変わっている。 嫁入りする女性が、夫となる男性の家へと歩いていくのだ。

      • ホラー短編集「飽食の時代の哀れ」

        性格も食に対しての考えや体質もかけ離れた二人の女性。 それでも親しくしていたのが、やっぱり食については思うところがあって、とうとう耐えきれずに彼女の食欲は止まらなくなって・・・。 ホラーの短編小説です。 会社の同僚にして、友人のアイはものすごい大食いだ。 それでいて小食のわたしより痩せている。 理由は単純明快。 一日にトイレで十回も大のほうをしているから。 便通がよすぎて、食べ物を体に通過させているだけのように思えるが・・・。 体内を通過している途中で多少、栄養を吸収し

        • 短編集「やくざをレンタルできるんだってよ」

          「やくざをレンタルできるんだってよ」 中学校の物置に隠れていて冗談としか思えない、その言葉を耳にした。 「まさか」と笑いながらも、家に帰って調べると、ネットで「やくざをレンタルします」とポップな広告が目についたもので。 ただ、広告やホームページの内容を見ただけでは信用ならず。 利用者の経験談や評価、その実態を取材した人の記事を読み漁ったところ。 世は不景気が長くつづき、おまけに少子化とあって、裏社会でも経営がくるしく、人手不足で困っているらしい。 そこで、打開策の一つとし

        ホラー短編集「人の世も鬼に食われてばかりではない」

          ホラー短編集「悪魔の本懐」

          「おまえのようなインチキ宗教家のせいで妻は死に追いやられたんだ!」 包丁を突きだし、そう叫ぶと、教団の総裁はふりかえって目を見開いた。 調べたとおり、真夜中の祈りの時間は総裁が一人きり。 だれかが助けにくるまえに決着をつけようと走りだしたものの、包丁は空ぶり、片手で頭をわしづかみに。 総裁は俺と体格が変わらないはずが、とんだ怪力で、手を外せないし、頭蓋骨が軋む音がする。 正直、肝が冷えたとはいえ「この詐欺師め!」と怒鳴れば「わたしが、彼女の死を望むわけないでしょう」と嘲笑

          ホラー短編集「悪魔の本懐」

          ホラー短編集「現代よろず妖怪物語②」

          【ろくろ首】 女の姿形をし、大きく分けて首が伸びるものと頭がとれて宙を浮遊するものと二種類がいる。 怪談や随筆によく登場するが、怪奇趣味による創作の色づけが強いと見られている 陶器をつくるときに使うろくろをはじめ、井戸の滑車、傘を開閉するときに使うそれが語源とされる。 俺の首が、どこまでも伸びていく。 顏でドアを開けて、外にでていき、道路を渡って、乗り物に乗って赴くのは行ったことがなければ、映像や写真で見たこともない場所。 まるで見知らぬ土地のはずが、その景色は故郷の

          ホラー短編集「現代よろず妖怪物語②」

          ホラー短編集「触らぬ禿に祟りなし」

          小学校のころ、禿たヤツがいた。 額は頭のてっぺんまでつるつる、後頭部にうっすら毛がありつつも真ん中が空洞のドーナツ型。 どうしてか、もみあげだけ毛量が多いという、禿の爺レベルでなく、もやは妖怪の域の珍妙な見た目で。 そりゃあ、無邪気でわんぱくな小学生男子は放っておかない。 「葉山」という名前だったからに「禿山!禿山!」と俺中心のグループがはやしたて、いつも笑いころげていた。 いじめに敏感な教師や「やめなさいよ!」と口うるさいお節介女子に、けちをつけさせないため「禿山」とはっ

          ホラー短編集「触らぬ禿に祟りなし」

          ホラー短編集「『また食べたい』と人に思わせる料理の蠱惑的な秘密」

          若いときから第一線で活躍しつづける地井田シェフ。 念願の彼の弟子になるも、新作メニューを考えるシェフは部屋に引きこもり。 先輩曰く「年々、新作メニューを考えるのが辛くなってんだよ」と。 「シェフももう六十才で、料理人になって四十年以上だろ? 新作を考える発想が枯渇して、そろそろ潮時じゃね?って噂になってる」 「引退には早すぎます!」と先輩に噛みつき、噂にかまわず、日々の修行に励んだもので。 その日は俺がまかない担当。 チーズリゾットをふるまうと先輩方に好評だったものを「地

          ホラー短編集「『また食べたい』と人に思わせる料理の蠱惑的な秘密」

          ホラー短編集「現代よろず現代物語」

          【「天狗になりやがって」と高笑いした男は己の迂闊さを呪っても救われない】 【天狗】 日本の伝承で伝説上の生きものとして多く語られ、神とも妖怪ともいわれる。 魔物、外法様とも。 由来は中国の凶星とされている。 赤い肌をして鼻が棒状であり、翼が生えて、山伏の格好をしている姿形が一般的。 「天狗になりやがって」が口癖の男がいた。 「調子にのっている」「傲慢になっている」と指摘する表現だが、彼の使い方は、すこし異なる。 ふだん存在感がない人の意外な一面が注目されると、冷やかす

          ホラー短編集「現代よろず現代物語」

          ホラー短編集「老いることは美しい」

          ため息を吐いて、まかないのハンバーガーに齧りついた。 もともとハンバーガーが好きで、バイトを希望したくらいだから毎日、食べても飽きないし、空腹なはずなのに・・・。 あまりに味気なくて飲みこんでから、またため息すると「おいおい」と苦笑が。 「そんな、まずそうに食ってるのを見たら店長が悲しむぞ」 振りかえると、バイトクルーの権三さんが笑いかけ、挨拶代りにコーヒーカップを掲げた。 ちょうど休憩が重なったらしい。 どこからどう見ても、若々しく可憐な女子でないとはいえ、その姿を目に

          ホラー短編集「老いることは美しい」