木曜ドラマ「silent」3話感想

グリーンのコントロールカラーベースを塗ったような映像に惚れ惚れする。
登場人物たちのその透明感も、そうやってつくられてる気がする。薄く淡く、気持ちを隠して。

みんなが互いを思う優しさで気持ちを隠してるから、冒頭の語りはありがたい。そこは本心なんだよね、と考えずに受け取れる。
3話冒頭の語りは湊斗だった。そこで感じられたのは紬への思いよりも、佐倉くんへの思いだった。

湊斗は紬のことも好きなんだろうが、同じくらい佐倉くんを好きだ。この好きに恋愛感情かどうかは関係ない。湊斗は佐倉くんが好きだ。だからこそ、役に立てないと分かっていても病気のことを話して欲しかったのだろう。

ここが本当に重要なのだが、彼が受け入れられないのは、友人の病気自体ではない。話してくれなかった友人のことでもない。
彼が受け入れられない、許せないのは、話しても良いと友人に思わせられなかった自分自身なのだと思う。

このドラマには、他人に迷惑をかけないよう自分ひとりでいろんなものを抱えて生きる優しい人ばかり出てくる。
その中で関係性に綻びが生じそうになった時、悪い原因は相手ではなく自分自身にあると思う人ばかりだ。湊斗はその代表例ではないか。それでも抑えられない自分の感情への贖罪として、悪役になっても構わないような動きをしている。しかし、そんな自分であっても誰も責めない。その背景を慮ってくれる良い人ばかりだから。責めてくれればいっそ楽になるのに、それはそれで辛かろうなと痛かった。

紬のバイト先を考える際も、自分がいずれ不利になる可能性を思いながらも彼女の幸せを優先した。全話で手話教室を勧めたのもその延長線上だと思えば得心がいく。

会社員時代の紬は、良い人だから無理をして損をしていた。
湊斗もいま、良い人だから無理をして損をしている。というか、紬も佐倉くんもずっとそうなのだけれど。その中で恋愛が絡めば、いつか誰かが損をするよなとは思う。でもこのドラマはもっと超越した答えを見つけてくれるのではないかという期待感がある。

どうでも良い話をまたしたいよ、とカフェで紬は佐倉くんに言っていた。それはイコールでまた高校時代のような恋愛関係に戻ることだと思っていた。でもラストの家のシーンで紬は湊斗を追いかけた。迷う間も無くそうしたのは、ちゃんといまは湊斗が好きだからだ。冒頭で、佐倉くんと2人でいるところを湊斗に見られても、全く後ろめたさを感じていなかったのは下心が全くないから、やましくないからだ。

どうでも良い話をできる、ただ共に過ごすだけに意味がある関係は、恋愛関係でしか実現できないのか?
決してそんなことないと思う。年森瑛「N/A」で言うところの「かけがえのない関係」は、ジェンダーなど関係なく築くことが出来るものだ。

その為に気持ちをさらけだすことは必要なのだろうか。だとしたらそれは、この3者には難しいことだ。デフォルトで、相手を思い遣ってしまう人たちだから。それでも希望を持ってしまう。3者それぞれの間に「かけがえのない関係」を築いていく物語が紡がれることを。そういう意味で、この作品は恋愛ドラマではないのかもしれない。来週も楽しみ。

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