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秋の香

数年前からこの時期になると、バラエティショップやフレグランスを扱うお店には金木犀の香りがする商品が数多く並ぶ。
昔からある植物、みんながよく知る香りが急に注目の的になったのか。
金木犀の香りとの出会いは、あるおしゃれ好きの先輩がきっかけ。
人の集まる場でどこか懐かしい匂いがするなと思っていたら、その先輩の香水だった。
話を聞くと、先輩は秋分過ぎから紅葉を見届ける頃まで金木犀の香水をつけるという。
粋な人だなと思った。それまで何となく香りがするものは私の心をほぐしてくれるものを選ぶことが多かったけど、季節に溶け込む良さもあると知った。
それから金木犀の香水を探したけれど、人気に火がつき始めた頃だったのか店頭で見かけることはなく通販でも高値で販売されている状態で気づいたら冬が来てしまった。
翌年には、あらゆるお店で様々な商品が並び、応援していたシンガーが急に売れてしまったような一抹の寂しさを抱えながらキラキラの小瓶を手に入れたのだ。
実際につけて外に出ると、自分から秋の匂いがする。昔住んでいたマンションの前に植わっていた金木犀が作るオレンジの絨毯を思い出し、ノスタルジックな散歩を楽しめる。会う人にも喜んでもらえるので誰かのために香りを纏う楽しさを味わい、お出かけの際の密かな楽しみになった。これが人気の秘密かと。日本人はどこまで行っても日本人で、DNAに四季を前に楽しまないとウズウズしてしまう何かが刻み込まれているのでは…。今年ももうそんな季節がやってきた。街中には同じように金木犀の香りを纏う人が多くいるだろうが、もしそんな私に会えたらその日はいつもより心が動いている日だ。

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