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アガルサガル

その昔、都の一番北には御所があったから、
京都では北へ行くことを上ル(あがる)、一方、南へ行くことを下ル(さがる)と言う。
住所表記も然り。
例えば孫右ェ門の住所は衣棚通(南北の縦の通り)に面していて、竹屋町通(東西の横の通り)から少し北へ行ったところなので「衣棚通竹屋町上ル」になる。タクシーの運転手さんにそう言えば、了解しましたとなる。
東西の道に面しているところなら、東西の通り名が先にきて、南北の通り名が後ろに。そして次に「東入ル、西入ル」と続く。京都の街中は碁盤の目で道路が成り立っているからこその住所表記だ。ピンポイントでその場所を示すことができる合理的で且つ簡潔なシステムだ。
それが昨今、この古からの住所表記がネットの地図検索にそぐわないからと、全国統一の市・区・町名・番地の表記システムに変わりつつある。正式な役所への登記では上ル・下ル・東入ル・西入ルの後ろには町名も番地も存在するから問題はないのだが。「お宅はどちらですか?」と聞かれれば、縦横の通り名に上ル下ル(東入ル、西入ル)だけで町名までは言わない。年賀状然り郵便物でも書かない。それが粋だと勝手に思い込んでいる。イキではないスイ。こちらでは「スイな人やなぁ」となる。このスイな人やなぁにも二通りの表裏の意味合いがあるからややこしい。また、粋でない人に野暮だねぇとは言わない。この街では昔から真正面から否定をすることはしない。住所表記の件も「何で今さら・・・」と、黙ってほくそ笑むだけである。

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