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バイバイありがとう、さようなら  ズルい言葉たちよ

○月△日
 最近は他人と議論することがなくなってしまいました。会社生活の多くは人との議論です。人間ができてきたのか、いろいろと諦めているのか。
 いつかのネットニュースで「論破ブーム」という言葉を見かけましたので、そんなことをつらつら思っています。「論破」がブームとは知りませんでした。

 議論で、言い負かされることは頻繁にありました。ただ議論に弱いだけかな。議論に勝とうとしている人には、どうしたって勝てない気がしています。
 こちらは論破が目的ではなく、自分の言いたいことを理解してもらいたいか、より良い答えを導きたいかのどちらかですから。議論に負けている負け惜しみかも。

 そう言えば議論では負けたことがないと自慢している人がいました。自慢することなのでしょうか。

 時々、議論の対象を上位の概念に抽象化して、その力に頼る人がいて困ります。「Aは要するにBの実践でしょう。Bはキホンのキですから、Aが優先です」とすり替えたりするのです。
 すると戦う相手がAでなくなって、より上位の抽象的なBになって苦戦を強いられます。誰もが認めざるを得ないBは難敵です。相手はそのBの一般例である、CやらDやらも次々と打ち込んできたりします。前提の違うCやDを相手にしているうちに、戦いたいAはどこかに逃げてしまいます。ズルいよなあ。

 ちなみに、キホンのキとか、イロハのイとか持ち出してくること自体が、ズル論戦体制のフラグと思ってよろしい。

 いろんな雰囲気をまとった言葉も使われると厄介です。説明した気になり、納得されたような気になる、パワーのあるワードっていろいろあります。挙げてみましょう。

「人権」
 これを言ってしまうと説明が楽になりますよね。便利な言葉だ。反論し難いパワーが備わっている。この言葉を多用する人は信用しないことにしています。この言葉を使っている人って、この言葉を使わずに言いたいことを説明できないんじゃないだろうか。もうほとんど印籠です。印籠は死語だったりして。

「ムラ社会」
 組織が旧態依然としていることを言いたいのでしょう。どこがどう古くて動きづらいのか。日本や会社組織などをムラ社会と言ってしまったら、批評した気になるのでしょうけど、何も言っていないのと変わらない気がします。記事や論評で出てきたら、マイナス10点ですな。

「島国根性」
 ムラ社会の同じ系列ですね。日本や日本人を揶揄したい時に頻出します。そんな根性って文化人類学的にどういうものなのかな。じゃあイギリスやらフィリピンやらキューバやらにもあるのかな。誰が言い出したのか。赤い感じもしますね。これはマイナス15点です。

「国民感情」
 オレも国民だが、オレの感情について聞きに来たか? というような感情も含めていろいろな感情についての想像力はあるのか?

「血税」
 普通に税金と言えばいいのに、わざわざ血税二十億円を使って、とか書いている記事が多いです。印象操作の手口です。政府側も「公的資金」とかいう庶民に関係なさそうな言葉を使ってきたりします。それを揶揄する側が、血税って使っていて同罪だということに気付いていない場合があります。
 そもそも日本の税制って、血を流してまで払うような重税でしたっけ。相続税くらいかな。

「老害」
 言いたいことはわからなくもないのですが。レッテルを貼った者勝ちになれる便利な言葉です。これもしっかり説明してくれないと。

「一言でズバリ言って」
 よくインタビュアーが、例えば陶芸の達人に「最後にあなたにとって陶芸とは、一言でズバリ言ってなんですか」と質問しているのを聞きます。あれは相当、失礼な物言いだと思います。一言で言えるほど単純なことと決めつけているようなものですから。これを言われたら机を蹴ってよろしいと法律で決めましょう。それにしてもズバリってなんなんだ。インタビュアーの力量がないと断言できるでしょう。

 一言で言い表せたとしても、理解も実践も難しいはずです。昔、上司の前で別の組織の責任者のことを褒めていたら「その人の良さって、一言で言ったら何?」と聞かれたことがあります。「誠実さですね」と答えました。この上司も、一言ズバリ病です。あれこれ多くの情報から深く考えて、全体像を独自に構築するのが苦手なのです。エッセンスだけもらって、同じように褒められたいのでしょう。そもそも理解できたところで実践などできないでしょうけど。
 ちなみに、この上司に向けての「誠実さです」という答えは、この状況では最高に皮肉なのでした。まあ、知らんがな、でしょうけど。

 これまでにも「バラマキ」「詰め込み教育」「絆」「こだわる」「すべからく」「役不足」「素直」「実家」などの言葉についていろいろ記事にしました。相当言葉にうるさくて面倒な男です。中身は理系なのですが。

 ズルくて便利な言葉、言い回しをリスト化して、使っていたら警告を発するアプリを作ろうかな。「論破ブーム」らしいことだし。売れるわけないか。でもリストはもっと拡充しておこう。まだまだこんなもんじゃないはずだ。それではまた。

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