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日記:20240222〜シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』〜

 シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』を大学生の頃に読んで以来となる再読。

 『山荘綺談』でとてつもない衝撃を受けた後に、学研ホラーノベルズのシリーズで旧約版を読んだ時は、やや地味な印象を受けた覚えがある。
 再読してみて、あまりにも読み落とした事柄が多かったことに気づいて自分が情けなくなった。コンスタンス姉さんがメリキャットには決して食料品に手を触れさせないなどの巧妙な伏線、チャールズの俗物ぶり、姉妹の倒錯的ともいえる関係の愛、自分と姉と猫だけの世界に閉じこもるメリキャットの目に映る魔術的な世界。

 メリキャットの目を通して描かれる世界は現実と空想がギリギリの領域でせめぎ合っていて、もしかしてコンスタンスやジョナスは実在していないのではないかと疑わしくなっていた矢先、認知症らしいジュリアン叔父さんの口から「メアリ・キャサリンはとっくに死んでしまったよ」と語られたところでゾッとした。

 たぶん「信頼できない語り手」的な叙述トリックのような構成ではないのだろうけど、精神的な不安定さを感じるコンスタンスも、隠された事実やメリキャットの視点ということを考えると、また違った見え方をしてくる。
 そう思うと、チャールズも不快な俗物には違いないのだけど、彼もまあ現実的で常識的なふつうの人間だったと思えなくもない。ただ、このお城では、現実・常識・普通が何よりも嫌悪される「悪」なのだろう。

 桜庭一樹さんの解説は、お城の「外側の人」からの観点で描かれていて、シャーリイ・ジャクスンはお城の内側の世界観にどっぷり浸りきって読むものだと思っていたから意外だったし、興味深かった。そちらの観点での読み方にも、共感できるようになった。

 180ページからの村人たちの悪意が火事の炎に煽られるように暴走する場面、悪夢めいた迫真性があってページをめくる手が止まらなかった。
 村人たちからひっそりと捧げられる贖罪の貢物を受けながら、経緯を知らない者たちの間で幽霊屋敷のような扱いを受けるようになっていくラストシーンは、日本史上で迫害を受けた人物が祟り神として神格化されたり、まつろわぬ神々が妖怪になっていく過程とぴったり重なっていて面白い。

 静かで穏やかなエンディングはとても美しいが、その美しい平和こそメリキャットの空想によるものなのかもしれない、と少しだけ疑ってしまう。結局、自分はお城なんてどこにもないことを認めてしまった「悪」の側の人間なんだ。


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