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中島敦『山月記・李陵 他九篇』

6月3日
中島敦『山月記・李陵 他九篇』読了。

 古賀及子さんの日記本を読んでいて、息子さんが中島敦の本を読んだというエピソードから、なんとなく読み直してみた。
このタイミングで読み返したのは偶然なのだけど、ちょうどこの本の前に読んだボルヘスとの共通点に驚かされた。どちらも古今の歴史や哲学、宗教に関する該博な知識をベースに換骨奪胎した物語が、時に幻想みを帯びるのが魅力的。

 以前読んだ時は『狼疾記』『悟浄出世』などの自虐的で屈折した迷える内面を曝け出した文章に惹かれたのだけど、今回はそれだけでなく中国史に題材をとった『李陵』『弟子』などの作品もじゅうぶん面白く読めた。以前読もうとして脱落した荘子の本もちゃんと読んでみよう。

 幻想文学としても名高い『文字禍』『山月記』も、以前はストーリーの奇想性にばかりとらわれていたけど、再読してみるとどちらも古代を舞台にしながらも、近代的な自我の危機が物語のカタストロフィと重ね合わされていることに気づかされた。

 南洋の国に赴任していた頃の随筆的な作品『環礁』も、ミクロネシアの暮らしを生き生きと色鮮やかに描いていて味わい深い。

 そういえば、『狼疾記』『斗南先生』の語り手は、作者自身がモデルと思われる「三造」という名前の人物なのだけど、この名前は西遊記の三蔵法師から来ているのかな、と『悟浄出世』『悟浄歎異』とのつながりで思ったりした。でも作者が自身と重ね合わせているらしいのは沙悟浄だしなあ。


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