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日本の営業組織がデータドリブンにならない3つの理由

ChatGPT をはじめとしたジェネレーティブAIの急速な実用化が進む中で、「営業のAI化」というテーマが日本のみならず世界中で話題になっています。さまざまなAI活用の可能性が議論されていますが、普遍的に共通するのは「データがなければ、恩恵にあずかれない」ということです。今回は、データの質の問題と、日本特有の3つの課題について解説します。

Garbage in Garbage out(無意味な入力データは無意味な出力を生み出す)

AI の最大の強みは、人間の知的行動を学習・分析し、再現できる点です。そして、その強みを活かすには学習データが必要です。

しかし多くの営業組織が、学習データの質の問題を抱えています。コンピューターサイエンスや情報処理の分野でよく使われる「Garbage in, Garbage out」という言葉があります。入力データが不正確であったり品質が低かったりする場合、出力結果も相応の結果になるという原理原則を指しており、まさに営業組織のデータ管理の実態を表しています。

多くの営業組織が抱えるデータ品質の問題

自社の営業活動にAIを活用する際に、最初に立ちはだかる壁が「データの統合」です。元となる学習データが欠損していたり、バラバラの形式で収集されたりしている場合、分析結果も同様にエラーや不正確さを含むことになります。営業支援ツールを数年前から導入していれば使えるデータが蓄積できていると思われがちですが、綿密なデータの定義やデータフローの設計なしに運用している場合、AIの学習に「使えない」データを蓄積してしまっている可能性が高いといえます。

分業体制がデータをバラバラに

AIの学習に「使えない」データが蓄積される要因になるのは、セールステックを導入する企業の大部分が「THE MODEL」と呼ばれる営業の分業体制を敷き、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなど役割に特化した組織構造を持つことに起因しています。役割に分かれて行動することで、専門性を高められる、PDCAサイクルを高速で回しやすいといったメリットがある一方で、縦割りによる弊害も出ています。

THE MODEL のイメージ図

部門毎に異なる成果目標を達成するための責任者が存在し、部門毎に異なるツールの導入や活用が進むことで、各々の部門に最適化された形式で各ツールにデータが蓄積されます。サイロ化した組織で蓄積されるデータは目的も形式も異なるため、部門を超えた統合が非常に難しくなるという実態があります。本来は連続性をもつ顧客体験が、データ上で分断された形式となってしまうのです。

部門独自で導入されるテクノロジーとデータの分断

日本の営業組織を妨害する3つの課題

多くの日本企業が全社的なDXに着手し、デジタル化に向けて一貫性を持って取り組んでいますが、その中でも「営業領域のデータ活用」は難易度が高い課題になっています。品質の良いデータの蓄積を阻む日本企業特有の課題を見てみましょう。

組織のサイロ化解消不全

連続性を伴うべきである顧客体験が、データ上では分断された形式となってしまう理由については、すでに言及しました。マーケティングや営業といった販売部門(フロントオフィス)だけでなく、経理や法務(バックオフィス)を含め、それぞれの部門が個別最適でツールの導入を進めた結果、気づけば社内に多数のSaaSや部署独自の表計算ソフトのファイルが併存している、という事態が発生しています。

データの分断のイメージ図

解消に向けては組織横断のプロジェクトを進める旗振りが必要になりますが、ここにも日本特有の課題が潜んでいます。

全体最適の視点で業務デザインを作る管理者の不在

全体最適で業務デザインを作る管理者がいないケースが多い

営業部門統括の役割としては、「成果の管理」に注力しています。営業組織の具体的な業務デザインは各役割に応じた部門責任者が個々に担当しており、各々の都合でツール選定や業務フローが作られ、全体の設計を統括する管理者が存在しないケースが多い、というのが一般的です。

グローバル企業では「Revenue Ops」(RevOps)という全社的な業務デザインを統一する役割・業務が存在し、営業、マーケティング、カスタマーサービスなどの部門が連携し、組織全体としての収益成長を実現するためのオペレーション管理を担います。

しかし、日本企業では「IT」「営業企画」「経営企画」などの業務が複数の部署に分散していることが一般的であり、全体を一元的に統括する RevOpsのような役職が存在しない状況が多いです。そのため、全体最適でIT投資判断を行い、運用できるオペレーションを司る人が不在となり、ツールの選定基準や運用ルールなどが設定されていない状況が生じます。これにより、企業がデータを価値あるものに変えるための基盤作りを難しくしています。

人がデータを入力することによる弊害

昨今、営業の活動データは主にCRM・SFAに蓄積されています。APIによる連携が浸透した現在でも、データの連携はCSVファイルのインポートで行われることが未だ多く、人の介在を前提に設計されています。そのためデータ収集までに工数と時間がかかり、リアルタイムで変化する顧客の行動や案件の進捗状況に対して時間差が発生してしまいます。

人の介在によるデータが歪むリスクが発生する

またデータ入力作業においては、個人差による漏れや表記揺れ、入力の時間が取れないといった状況差、時には重複入力など変数が多く、ヒューマンエラーによって不正確になってしまっています。

ヒューマンエラーによるデータ取得の課題

このような日本企業特有のハードルにより、AIが学習できる構造化されたデータを持つことが難しくなっています。

品質の良い、AIが学習できるデータを作るために必要なこと

日本企業では各社のCRM上に数十万件を超えるような豊富なデータが残されている一方で、日本企業ならではの構造的な複雑性から、「データ本来の価値」を活用しきれていないのが現状です。AIに期待される効果を享受するためには、組織的に業務デザインを設計し、データを蓄積する必要があります。

次の記事では、どのように業務デザインを設計し、信頼できるデータを蓄積・運用していくのかを手順を追って解説します。

また、本投稿の内容を ITmediaビジネスオンラインにて、当社代表村尾の連載企画としてご掲載いただいております。記事では、品質の良いデータがあればどのような示唆を導くことができるのか、どうして日本企業はそのようなデータを作ることが難しいかをより詳しく解説しています。
なぜ、日本企業の営業組織は「AI」と「データ」を正しく使えないのか?(2023年8月10日公開)