マリシカとむいちゃん
マリシカとは、私が作った母のあだ名である。
風の谷のナウシカ。ご存知の方もたくさんいると思う。
母の名前とナウシカを掛け合わせてマリシカ。
母は、ナウシカのような女性なのだ。
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先日、朝起きるとマリシカに「トイレで蝶々を保護してるからドア開けっ放しにしないで。猫に見つかると困るから」と言われた。
見に行くと、窓辺に羽がシワシワくるくるの紋白蝶が、洗濯ネットを使って作られた簡易籠に、たくさんのお花と蜂蜜を浸したコットンと一緒に囲われていた。
どうやら、羽化した時にうまく羽が広げられずに飛び立てなかったらしい。そういう蝶々はすぐに死んでしまうらしいから、と保護したそうだ。
↓蝶々の写真があります。
マリシカは、いつだって命に真摯に向き合っている。
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2014年の春、仕事を辞めた私は、闇雲に求職活動をしていた。
4月末、部屋で履歴書づくりをしていた時、庭仕事をしていた母に「猫のご飯持ってきて!はやく!」と呼ばれた。
猫のご飯‥シーバが小包装になっているからいいかな‥と鷲掴んで、駆けつけると、母の視線の先には肥料のヌカを食べる茶色い猫(茶トラ)がいた。
(網戸越しに写真を撮った。)
(今見ると、ものすごい体の毛が膨らんでいて、かなりビビっていたご様子。)
茶トラさんは近づくとシャー!!!した。猫パンチもした。
オッケーオッケーそっちのタイプねってなもんで。
手が出るタイプだった。
私は慌ててシーバを母に渡した。
母が茶トラさんにご飯をあげると「ニャーーーー!!!」とシーバのあまりの美味しさに驚いたらしい。
ニャムニャム鳴きながら猛烈に食べた。
ここを離れてはもう死ぬ。と言わんばかりに、その場にずっとうずくまって高い声でニャー、ニャー、ニャー、とコンスタントに鳴いてシーバを所望し続けた。
……これは困った。ご飯をあげて関わったからにはどうにかせねば…と私は思った。
そんな時、数件先の外に出されている猫ちゃん(勝手にジャイアンと呼んでいる)が突然走ってきて、茶トラさんにアタックした。
茶トラさんはとんでもない形相で叫びながら逃げた。一目散だった。
ジャイアンに「やめて!!!」って言ったけど、えぇ、猫ですからね。そんなの通じない。
茶トラさんをそのまま追いかけてどこかに消えてしまった。
(本当に外に出すのをやめてもらいたい…)
この茶トラさんはどうやらものすごい臆病で弱い猫らしかった。
そして、ものすごい飢えていた。
マリシカ本気を出す
翌日以降、茶トラさんはキョロキョロあたりを見渡しながら、猫ちゃんが他にいないことを確認すると我が家のお庭まで走ってきて、そこらじゅうに響きわたる声で
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
である。
もう甲高い鳴き声、というよりも叫び声。いや、悲鳴だった。
私と母は、この悲鳴が聞こえると、慌てて猫ちゃん用のご飯を握り締めてお庭に飛び出した。
それなのに、ご飯をあげようと近づくと「シャー!!!!!カーーーーー!!!」
である。
シャウ!っとパンチまででてくる。
ふと見ると、体は黒い斑点だらけだった。よくよく目を凝らすと、ダニだった。
ひぇぇぇぇぇ!
かわいそうでならなくて、取ってあげる!と手を伸ばそうもんなら
「ニャー!シャーーーーー!」
である。
私はとてもビビリなもんで、猫パンチが怖かった。
でも、母は違う。
ある日も母とふたりで、茶トラさんにご飯をあげていた。
母は「はい、どうぞ」と、あろうことかご飯をのせた手を差し出した。当然シャー!とパンチされて、真っ赤な傷ができた。
いや…よく見ると母の手は無数の傷だらけだった。
いつか見たオジサンの手みたいだった。いつか見た獣医さんの手みたいだった。
猫パンチされた反動で、カリカリは母の手から地面にコロコロと落ちた。
やばっ!こわっ…って思った瞬間。
母は「あらあら、落ちたじゃない。」と拾って、平気でまた手を差し出した。
え?!母!?動じないの!?こんなに傷だらけなのに、動じないの!??
既視感があった私はよく考えた。
あ、あれね。ナウシカの。ほら。テトとの出会いのシーンの。
「怖くない」ってやつね。
ここに、マリシカの誕生である。
そして、私はマリシカに言った。
「こうやって猫ちゃんにご飯をあげるなら、きちんと去勢避妊しなければいけないよ。一度関わったんだから、責任があるよ。」
強気。めっちゃ上から強気、わたし。自分のことは棚上げして。
本当は求職中だったし、もうマリシカにしか頼めないと思った。ここは強気でいくしかない。押し通すしかない、と思った。
「え〜〜だって、肥料のヌカを食べて生きる生活なんてかわいそうじゃない…」と言いながら、マリシカは野良猫ちゃんに優しい病院を探す旅に、無事、出航した。(ネットサーフィン)
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茶トラさんは、本当にジャイアンに怯えながら生活していた。
ジャイアンがいない時、大声で悲鳴をあげながらご飯をもらいにきて、出されたご飯はどんなに大きくとも全部丸呑みした。
ある程度もらったら、ダッシュでどこかへ走って消えた。(一度追いかけてみようと思ったら秒で消えた。その後噂で数件先の草がそびえ立つ空き家の庭に、ひっそり隠れていたらしいことをご近所さんから聞いた。)
ジャイアンに怯えて悲鳴をあげながら暮らす茶トラさんがあまりにもかわいそうだった。
それに、高い声だしすごく小さかったから、まだ子どもの女の子かもしれない。
子猫なら、うちの先住猫ちゃんパトラとせたじにも馴染みやすいかもしれない。
女の子同士なら、パトラさんと仲良くなれるかもしれない…なんて家族で話した。
3ニャンに増えるのは、少し想像ができなかったけれど、このまま外で地域猫として‥とはちょっと考えられなかった。
迷いながら、話し合いながら、茶トラさんにご飯をあげ続けていた。(何度あげてもずっと悲鳴とシャーだった)警戒心はなかなかとけなかった。
2014年5月25日 背中の毛が突然ハゲ出した。
自分では引っ掛けない場所。
え?男の子に噛まれちゃった…?え?こんなに小さいのに子ども生まれちゃう!?それともいじめられちゃった!?と思った。
限界だね、とマリシカと話した。もうこれ以上引き延ばせない‥と思った。
でもその当時、いろんな所に問い合わせたけど、近隣に野良猫ちゃんに優しく対応してくれる病院はなかった。
やっと見つけたのが、車でなんと片道1時間15分の場所。
遠かった。猫ちゃんに負担がかかるなぁと思った。でも行くしかなかった。
病院にお願いして、捕獲機を借りることになった。
こんにちは、麦じ
2014年6月9日、早朝現れたところで、マリシカが茶トラさんを捕獲器で保護した。
避妊手術の予約をした日に、すべて段取りを組んでの事だった。
捕獲機に入って扉が降りた瞬間、「ニャー!」と鳴いたけど、嘘のように大人しくなった。
車に乗せて病院に向かう道中、あれだけシャー!ニャーーーーーー!!!だった茶トラさんは、一言も鳴かなくなった。
私は1時間15分の間に、まさか…死んでないよね?と何回も捕獲機にかぶせていた布をめくった。
茶トラさんは目を見開いてずっと硬直していた…。
殺される覚悟をしていたのかもしれない…
1時間15分、田舎道を走りながら、マリシカとこの子の名前どうしようか〜なんて呑気に話した。
そう話す車窓から見る景色はあたり一面、麦畑ですごく美しい田舎道だった。
ありきたりだけれど、麦。麦にしようか。こんなふうに美しい毛色でしょ、茶トラって。
なんて話し、病院に預かってもらい、手術が終わった連絡をもらうと
なんとびっくり。男の子だった。
え??声高すぎじゃない?(今でも病院の待合室で女の子と間違われるほど声が高い…)
そういえば、うちに来る時いつもしっぽ巻いて膨らませてたから、お尻見たことなかった‥
しかも先生は「子猫じゃないよ、少なくとも3歳くらいじゃないかなぁ。うんちもすごく立派」と笑った。
優しい先生は、ダニだらけの茶トラさんのシャンプーもしてくれた。
初めて会った先生だったけれど、やっぱり手は引っ掻き傷だらけだった。
先生もナウシ‥
先生も勇敢なのね…なんて私は羨望の眼差しを送った。
男の子かぁ。じゃあ、せたじと父の名前○○じ、に合わせて、「麦じ」にしようか。
「こんにちは、麦じ。これからよろしくね。」
体重は2Kg程だったと思う。
きっと、出会った頃は餓死寸前だったのかもしれない。(現在4.9kg)
心配していたシャーは、ケージに入った後に人慣れ訓練をしたら、すぐに触れるようになって拍子抜けした。抱っこもできる。(抱っこすると借りてきた猫のようになる)
どうやら、口元がゆるい猫ちゃんみたいだった。
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家猫になったむいちゃん
麦じなんて名前だけど、うちでは現在「むいちゃん」って愛情を込めて呼ばれています。
ケージからでた頃は時々行方不明になって、慌てて姿を探すと、勝手にベランダで寝ていた。
すごくマイペースな猫ちゃん…
少し野生が強いけど、猫社会でとても揉まれて生きていたようで、せたじがすぐに強い猫だと理解して、下手に出てペロペロ舐めて慕っている。(ペロペロ舐めて寝床を奪ったりする知能犯でもある)
パトラとはあまり相性が良くなくて、むいが来てからせたじとパトラの関係が少し変わってしまった。そこは本当に申し訳ないことをしたと感じています。。
すごく寂しがり屋で、恐ろしいほど寒がりな面もあって、四六時中猫ちゃんにひっつきまわったり、人の膝にのってくることもあります。
保護して本当によかったなぁと思っています。(せたじとパトラは迷惑してる)
むいは小柄でちっこくて、とても猫ちゃんに優しい性格。
遊ぶのも大好き。
でもやっぱりとっても怖がりで、知らない人が家に来るとどこかへ飛んで逃げて隠れてしまうし、今でもジャイアンがお庭に来ると悲鳴をあげています。
ご飯の時間になると、必死に人間に媚びて足にまとわりついて、出されたご飯は全部丸呑み。
本当にお腹がすいてたまらなかった思いをしているのかと思うと、悲しくなります。。
そして病院に行く前にキャリーに入れようとすると、猛烈に驚愕しておしっこを漏らしてしまう…。
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マリシカに「出会った頃のむいに、よくひっかかれながらご飯あげてたよね。怖くなかったの?」って聞くと
「あんなの全然怖くないわよ〜ただ怯えてるだけじゃない。」と笑っていた。
私もマリシカみたいになりたい。きちんと心の目で猫ちゃんが見られるようになりたい。そんなふうに思った。
もう絶対に家からは出ないと決めているらしいむいちゃん。
時々呼吸をしているのか確認しなければならないほど、爆睡しています。
マリシカに理解してもらえてよかったね、むいちゃん。
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