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「ごんぎつね」ー何度も出会いたい、物語ー④

あらためて「ごんぎつね」の本文と向き合った後、
授業に使用する予定だったワークシートも、全面的に見直すことにした。

(人は何ものにも色を付けられるものでないと理解しているが、
わかりやすく述べるため、以下表現をつかわせてもらう。)

私が出会った母国の子ども達は、非常に優秀。読解力も高い。
しかし、自分の思ったことを発言したり、余すところなく書く
「発信力」が、他の知識と同程度ではないように見受けた。
着眼が鋭い子どもも、多い。さらに、概して感性細やか。
残念なことに、その素晴らしい見解を
他者と共有するエネルギーのようなものも、控えめに感じた。

じゃあ、彼らは、どこにエネルギーを向けているのか。
「自分は、こう思っているんだよね、そうだよね」と
自分に向けて、そのまま昇華してしまうように思った。
このような子ども達にとって、思わず自分を表現したくなるツール、
その子ども達の実態に合ったワークシートは必須となる。

初回授業で私が準備したワークシートに各人が取り組んでいるのを
机間指導して、気づいた。
学校外でも教育を受けている子供も多く、書くことに慣れているのだろう。それなりに書いている。表面は十二分。
でもなんというか。各人の心が、見えてこない。
また、クラス内の子ども達のアウトプットの量に、個人差が大きい。
この差を出さないようにしないと、先のグループ学習が上手くできない。

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その後、改訂版ワークシートが完成した。
ひとえに、実習校の先生方のお蔭。

話が脱線するが、日本の先生方は本当に素晴らしい。
実習中、何度も思った。
志が高い上、朝から晩まで学校のためのことをしている。
朝、子供達の登校前1時間前以上に登校し、終日授業をする。
合間に保護者対応(連絡帳)をした後に、次の授業準備。
さらに学校関係の雑多なことまで、みんなで手分けしてやっている。
その上、実習生(私)のサポートもしてくださった。
こんなに素晴らしい教員を抱える日本の教育現場は非常に恵まれている。
教員が、もっと教務にフォーカスできるような制度を確立し、
待遇を向上させたり、負担を軽減するシステムができるといいなと思う。

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毎日、「ごんぎつね」を指導した。
”デート(授業)”は児童と教員双方が作り上げるもの。
回を追うごとに、それを実践している瞬間を感じるようになった。
私が考えた授業展開から、新たに児童が流れを作ってくれたこともあった。
グループ学習で、深い話し合いがされているのを見て、
私にも新たな気づきがあった。

実習校の子供達に深く寄り添った経験は、とても貴重だった。
朝から夕方まで、共に過ごし。
子供達とは、なんと一日中がんばっているものなのかと、実感した。

汗だくで登校した後、授業を受けるだけでなく色々あるものだ。
クラスメイトとの人間関係、教員とのやり取り、
まだまだ他にも、家の外で一日中経験しているのだ。
大人と、同じように。

子供達が家に帰ってきたら、あたたかく出迎えてあげてほしい。
テストをがんばれ、塾に行け、友達を作れ、宿題をすぐにしろ、
快活であれなどの小言を浴びせないでほしい。
これ以上、何が彼らに足りないというのか。
さらに何を頑張らせる必要があるのだろう。
生きて、家に帰ってきてくれただけで、嬉しいではないか。

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いよいよ、研究授業の日。
実習校の教員でいっぱいになった教室で、私は授業をした。
実は、規定の授業数では十分でなく、
担当教員の厚意で多めに授業をさせてもらった上で臨んだ。

先生方の視線はあたたかいものだったが、さすがに緊張した。
これまでの日々してきた全てを、思い出す。
前を向いて、あとはやるしかない。

授業の中で、児童自身の考えが学びによって変わる。
一瞬、怯みかけたが、その想いも汲まないと。
担当クラスの子供達も、がんばってくれていることを感じた。
ぐいぐい、私もリードされんばかりの勢いをなんとかまとめ、
研究授業は無事終了した。

授業後の片づけをしていると、担当クラスの子供達にたずねられた。
「ねえ、先生。合格したよね。この学校に来れるんだよね?」
子供達は、この研究授業が上手くいけば、
私が実習校の教員になれるとばかり思っていたのだ。

そうか、それで一緒にがんばってくれたのか。
その愛らしさに、胸が熱くなった。

実習を終えた半年後、実習校をたずねたことがあった。
担当クラスの子供達が、ドラマさながらに私の元に走り寄り、
あたたかく出迎えてくれた。
私にとって、この教育実習は、人生の中での良い思い出の一つとなった。

「ごんぎつね」に出会うたび、あの日々を思い出す。
そして、気持ちも新たに、今も教壇に立っている。

この記事は、企画「#教科書で出会った物語」に触発されて書きました。


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