「時空を超えて出会う魂の旅」特別編～印度支那㉘～

東南アジアのある地。
出家を経て、戒名「慧光」を私は授けられ”巨大寺院”に入門。
心通う少年、「空昊（空）」、隣国の僧「碧海」と出会う。
新たな戒名「光環」を名乗り、故郷への旅に出る。

光環は、巨大寺院に向けて発つことを定めた。
支度はすぐに整った。
僧である光環、空昊は、その肉体以外に所持品が無いからだ。

しかし近隣寺院の都合があり、今しばらく蓮花の父母の家に滞在していた。

出発前に、母同然の茉莉と、もう少し話をしたかった。
茉莉の息子を介すことになるが、今生の別れとなるならば、
どのような話題でも気にする必要もないだろう。

息子を伴い、茉莉が訪ねてきた。
その姿をみるだけで、光環は心から安らぐ。
茉莉は光環の好物を、たくさん手にしていた。
いくら好きな物ばかりであっても、
こんなに一度に食べることはできないのに。いつも茉莉は、そうだった。

ただ、嬉しい。光環は思うまま、喜びが溢れてくるのを感じた。
今日だけは、子供の時のように茉莉と接していいと、
光環は自らを赦すことにした。

「茉莉。父は我のことをどのように考えていたのだろう、家出した後。」
ご主人様は、とても悲しまれていました。
貴方様は、この世にもういないと思い込まれていましたからね。
お母様と貴方様がいる世界へ自分も早く行きたいと、祈られていました。
そうして、まだ生きながら、この世でのご自分を閉ざされてしまい。
そのまま、亡くなられたことが残念でなりません。

「剛充には、気の毒なことをしてしまった・・・。」
貴方様は、ご自分が為すことをしたまで。
剛充様は、ご自分が受くるべくことを受けたまで。
貴方様は、ご自分が受くるべくことを受けたまで。
剛充様は、ご自分が為すことをしたまで。
これからも、そうであっていいのですよ。
剛充さまは大丈夫です、私達がいます。
貴方様は、貴方様が為すべきことをしてください。

「かつて蓮花は、我を恨んだのだろうか。」
蓮花様は、非常に賢明な女性です。人を恨むなど。
然るべきご縁を大切に、生きていらっしゃいますよ。

ここで、光環は言葉を一旦止めた。
しばらくの沈黙の後、茉莉に問う。
「茉莉。私の体のことは、そなたは知っているのだろう。
私の父と母、剛充は知っていたのかな。」
はい。お母様からお生まれになった時から、存じ上げているものですから。
お世話をさせていただいたのは、私だけでしたから、
他の皆様はご存知なかったかと思います。

「色々なことがあったよ。男性とも女性ともつかない体で。
　入浴や浄め（排泄）、着替えなど、今でも気配りしている。」
そのお体でいらっしゃるからこその、様々なご経験があったことでしょう。
全て、貴方様にお幸せの糧となられますように。

「私の出奔は、私の家族に不幸をもたらしてしまった。
　本当に申し訳なく思う。
　この体であの家で生きることに、希望の持ちようがなかったのだ。」
家を出られるまで、その後も、お辛かったことでしょう。
貴方様のお苦しみを、私がお支えきれず、申し訳ありません。

今のご家族のことを知るにつけ、お苦しみでいらっしゃいますね。
剛充様のことは、これからも私共がお守りいたします。
ご主人様のお体は、丁重に敷地内に葬りました。
奥様は、然るべき時があれば、お戻りになられるかもしれません。

どうかこれ以上、ご自分の因果に苦しまないでください。

「茉莉。あなたの生きる道は尊いばかりだ。どうかご家族と幸せに。
　お願いがある、あの屋敷と土地をどうか、
　あなた方家族の家としてほしい。
　万事問題無い。おじさま（蓮花の父）に、後見をすでに頼んでいる。」
なんと有難いことを。
かしこまりました。あのお屋敷を、これからも守ってまいります。

このことは、光環が一番、茉莉に知ってもらいたかったことかもしれない。
光環は、言葉をそっと続けた。
「茉莉、このような体と心の我だが、
　我そのものに今世、再会することに恵まれた。我は、とても幸せだ。」
その言葉に、茉莉は満面の笑顔のまま、ただ感涙していた。