見出し画像

とっても素敵な当たり前!剣持のスツールとおばあちゃん

まだうちの長男が小学生低学年の時ですから、震災からさかのぼっても10年くらいでしょうか、それは今から20年前くらいのことでした。長男を連れて牡鹿半島の突端にある美しい浜辺へ遠出した時のことでした。この辺は夏と言えども親潮の影響がある南三陸近くですから、仙台近郊の海から比べると海水がとても冷たく感じます。そのかわり透明度が素晴らしく牡鹿半島という素晴らしいロケーションと相まって、親子二人とても楽しい時間を過ごしました。
 
午後二時も過ぎると「そろそろ帰ろうか。」ということになり、車を止めていた駐車場へ。体の体温を奪っていた親潮の冷たい水滴をバスタオルで拭き取ると、今度は降り注ぐ蝉時雨と一緒に夏の暑さが体いっぱいに戻りました。その時長男が「お父さんおしっこしたい!」というものですから、困ったなと思いながら周りを見渡すと、遠くに小さなお土産物屋さんが見えました。「そこでトイレを貸してもらおうか」ということになりお土産物屋さんへ。

僕らの姿をみつけお店から出てきたのは、満面の笑みのおばあちゃん。「あんだたち仙台から来たのすか?こっちさ来てお茶でも飲んでがい。あんだおどうさんすか?わげえごだ~!ハハハ(あなた達仙台から来たの?こっちに来てお茶でも飲んでいきなさい。あなたこの子のお父さん?若いね~)って。笑 おばあちゃんは80は過ぎていると思います。片手を曲がった腰に当てながら、お店の隅に重ねられていたスツールを一脚ずつ片手でひょい!ひょい!「ほら!座らい!」(座りなさい)って僕らに差し出してくれました。「いまおじゃいれっからね~」(今お茶入れてあげるからね~)って言ってるおばあちゃんの声を聴きながら、先程差し出してくれたスツールに腰を下ろし、トイレに行っている長男の分のスツールをなんとなく眺めていると、それは剣持勇のスツールではないですか。

画像2

昼下がりのお土産物屋さんの軒下で輝く海と蝉しぐれと剣持のスツールと僕。

このおばあちゃんはこの辺ですときっと石巻あたりの家具屋さんかなんかで購入されたんでしょうね。おばあちゃんは剣持勇など当然知ることもなく購入されたわけです。「そいなに有名な椅子なのすか?」(そんなに有名な椅子なの?)と言ってましたから。笑

画像1

ただ作者がデザインした意図通りに、決して広くないお店の片隅に4~5脚だったと思いますが、使わない時はお店の片隅にコンパクトに積み重ねられ、そしてその重量は一脚2.2Kgと軽量化されていて4~5脚なら重ねても手が届く高さなので、80過ぎのおばあちゃんでも片手でひょい! デザイナーの名前でもなく取説読んで難しく勉強したわけでもなく、その姿はごくごく自然体。
このいたって自然に道具を使いこなしている光景に、なんかこちらが嬉しくなってしまったことを今も覚えています。デザインを「考える人」から「使う人」までモノがきれいに流れている好例かもしれませんね。こういったことが「用即美」と言いうんだな~と今改めて思うわけです。

帰りはもちろんおばあちゃんのお店から大人買い!食べ方を色々と教わりながら沢山海産物を頂いてまいりました。今も忘れないとても素敵な思い出です。
みんながハッピーって素晴らしい!

■スタッキングスツール No202 1958年 剣持勇
サイズ  W400 D360 H440
材料 ブナ(現在はナラ仕様も追加)
仕上げ ウレタン
製造販売 秋田木工

1958年銀座松屋で2DKで暮らす四人家族をテーマに開催されたアパート生活展」に出展されました。フレームはブナ材を利用した曲木。座面は成形合板。当時はビニールレザー張りにて都市生活向けとして発表されました。

〇現在、樹種はブナ材もしくはナラ材仕様があり、従来のツヤありウレタン仕上げの他にツヤ消しウレタン仕上げ、オイルステン、ソープウォッシュ等、対応可能です。また張地もビニールレザーの他に布張りが対応されています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?