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匿名デザインと老婆心

世の中にはデザイナー不在のデザインというものがあります。そのような匿名のデザインのことをアノニマスデザインといいますが、例えは野球で使用するバットやグローブ、実験で使うビーカーなどが例としてよく挙げられます。私の店は皆様の暮らしのデザインに寄り添う店ですので、家具や照明以外にも日用品も多種多様取り扱っております。その中では汁椀やめし椀などその原型もやはり匿名のデザインといえるでしょう。
匿名のデザインは使い手の要望によってその形が進化すると言われています。例えばめし椀ですが、まだ貧しく重湯に近い粥状のものしか食べることが出来なかった時代は、お椀を口につけすすり入れるため汁椀同様の形でしたが、時代が豊かになり塊状のご飯を箸でつまみ口に運ぶような時代になりその深さはやがて浅くなり口径が広く変化しました。食料事情に合わせ形が変化したわけです。
さて、この匿名のデザインですが老婆心ながらいささか心配していることがあります。それは先程お話しました野球用品や実験用品などいわゆる現場があるものは、現在でもそのニーズにこたえながら研究開発が進み進化の道を歩んでいると思うのですが、モノの数だけは市場にあふれ、一度行き渡ってしまったせいかモノに対してあまり向き合わずに消費行動をとってしまう今の時代、私たちの実生活を豊かにしてくれる日用品に関してはいかがなものかととても心配になります。

汁椀は一般的に男性用が口径が4寸、女性用で3.8寸。日本人の優しさか男女の手の大きさの違いからわずか6㎜の差がつけてあります。一説のよると汁椀の口径は使う人の身長の8%くらいというのがあります。それを逆算してみるとなんと男の身長が150cm。ネガティブな見方をすると、そこで止まっているということは日本はその頃から次第に消費者がもの購入する際、あまり意見を言わなくなったのではないかとも考えられるわけです。

かつて自分のお箸を買う時の一咫半など自分の体を物差しにしてモノを見る真度尺など貧しかった時代の人々は自分を守る為の生活技術が高かった。実にうるさかった。「手頃」という言葉はこういうとことから生まれた言葉ですね。現在のような宣伝技術ばかりが発達し生活技術が脆弱な時代、お客様に寄り添う立場としては今一度自分の姿勢を正す毎日であります。


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