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読書感想『名探偵のいけにえ』※ネタバレ注意

今週読んだのは著:白井智之さんの『名探偵のいけにえ』でした。
友達が貸してくれた作品で、かなりお勧めしていたので楽しみにしていました。


今回の舞台は1980年のアメリカ。今回の作品のモデルは貿易センターのテロまで米国史上最大の被害者を出した人民寺院というカルト宗教がモデルですね。ジョーンズタウンの事件は知っていたどのように日本人を組み込むのか楽しみにしていました。

冒頭のシーン、最初に読むとただの回想です。引っかかるところがありましたが、

物語の始まりでこの作品がどういう作品かというものが紹介されたような事件でしたね。主人公の大塒の推理はそれっぽかったものの見事に外れ、有能な助手りりこの推理が真相を解き明かす。
助手へもそうですが、他社の才能への嫉妬や探偵というものへのプライドなどその辺の複雑な感情がかなり強調されてました。


というわけでいろいろあり、ジョージタウンへ。
1980年というのは社会主義の全盛期であり、世界中において共産主義や似たような主義が流行った時期でもあります。本家ジョーンズタウンもそんな思想の中生まれたコミュニティであり、実際のところカルトの面より人種差別のない世界という面が際立った集団だったという話です。

ただ、今回のジョーデンタウンのほうはしっかりとカルト寄りに表現されていました。人々が集団幻覚を共有している社会であり、ジムがペテンを使って支配のためにうそを作っている世界。

なんか到着後早速一人虐殺されましたが、まぁよくあることです。

というわけで、こっからが今作の本題なのですが現地で合流した助手ちゃんとその仲間が帰宅するためにあくせくする中で殺されていくのですが、どれも難しい事件ですね。全く犯人の予想はつきませんでした。

そしていろいろあり議員がくるのですが、モデルを知ってる身とすると議員がくるということは大量死が始まる合図でもあります。
ちなみに現実でジョーンズタウンに行った議員さんはかなりいい人だったそうです。この作品の中のような嫌な人ではなく(笑)

というわけで助手ちゃんが殺されたところで解決編です。
今作の目玉でもある解決編ではなんと2種類の推理が用意されていました。直前の助手ちゃん推理も入れると3つです。
この推理において大切なところは、『真実である』というより当事者が『何を信じるか』というところにあります。僕の好きな戯言シリーズでも主人公は似たような手を使います。正しいかどうかではなく、どう納得する・させるか。

ということで今回主人公は徹底的にジムを追い詰めるための理論づけでした。どちらを選んでも教主か世界の崩壊を招くように聞くものすべてを納得させてしまった時点で勝ちです。ここまで推理幅が広く、納得度も高いトリックを4事件も作り組み込んだ凄さには脱帽しました。とても読んでいるのが楽しい一連の解決編でした。

ちなみに最後の集団自殺ですが本作だと住民が納得し毒を飲んだようになっていますが、モデルとなった事件ではここは懐疑的だそうです。強制的に飲まされたという話もあるそうで、こればっかりは死人に口なしです。
(ちなみに自決前のジム・ジョーンズの演説は聞けます)

というわけで物語は終わりへ。
大塒は撃たれ4年間の昏睡の末に目を覚まし、なんとQ少年が訪ねてきます。(私はずっとQが犯人だと思っていました。)
ここで始まるのが最後の解決編です。
ここで明らかになるのは実際に毒を混ぜたのは大塒であり、彼らが受け入れたとはいえ、大塒は復讐を果たしたというものでした。

この後からQ少年は大塒の動機を探すわけですが、個人的にはこの部分が最後少し引っかかっているんです。
動機はりりこを殺された復讐。Q少年の推理だとあの天才助手があんな奴に殺されたことや、天才探偵こと横藪に負けてしまったことに納得できず、大事件にしたかった。というものでした。
タイトル回収もここです。りりこちゃんのための生贄であると。

自分が飲み込めないのはここです。子供らしくて負けず嫌い、探偵としてのプライドなども高い男が、復讐でやったというのが納得いかないのです。

住民を全員毒殺に送り出すことがりりこちゃんの名誉になるわけでもなく、彼女の推理が広まるきっかけになるわけではないのにそんなことをするのか、という点。横藪の事件でもりりこちゃんの推理をさらっと使わせてもらっている点を見ても、愛着はあっても自分を優先する男なのではないのか?と思ってしまいます。

個人的にはの話ですが、りりこちゃんのためだとは全く思えなかったのです。作中で表現されていた大塒の人間性で見ても、なんかしっくりこないんですよね。
どちらかというと、自分のためであってほしいので『自分の中での天才像を壊したくなかった』からとかのほうが納得できたような気がしますね。りりこちゃんの為なんて微塵も思っておらず、自分の嫉妬していた物凄い才能が殺されたのはこの恐ろしい集団狂気に巻き込まれたからだと、そしてその狂気達を促して死に追いやったのは自分だというある種の優越感のようなもののためだったと。

まぁこの辺は好みでしょうし、ちょっと納得しきれてないだけで作品自体はすごくおもしろかったです。


というわけで今回は『名探偵のいけにえ』でした。
叙述トリックや密室、話のテンポ感や怖さなどすべての完成度が高く、すらすら読めましたし、とても楽しかったです。
この著者の別作品も他に読んでみようかなと思いました。ミステリーやっぱりいいですねぇ。フーコーの後に読むとフィクションが体に染みますね。

次に読む本は久々に上遠野浩平さんの『殺竜事件』にしようと思います。
そういえばブギーポップの新作が出たそうで。なかなかシリーズを手に入れられないので読み進められないのが残念ですが、いつかは読みたい。


それでは最後まで読んでくださった方いらっしゃればありがとうございました。
著者Twitter:まがしき @esportsmagasiki


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