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読書感想『名探偵のはらわた』※ネタバレ注意

今週読んだ本は白井智之さんの『名探偵のはらわた』でした。
最近友達に借りた『名探偵のいけにえ』で生き残ったQ少年が探偵業を軌道に乗せて弟子まで取った世界線のお話です。ずいぶん立派な探偵になっていた…

前作を読んで、この人がものすごいトリックに凝った人だというのは認識して読んだため、かなりヒントを見落とさないようにしながら読んだのですが、またしてもダメでした。
その上がっつりと亡霊まで出てきてリアル路線じゃないの?!と取り乱しましたが、調べたらこちらのほうが専門のようで『名探偵のいけにえ』が特殊っぽいですね。


今作の本編ですが、大きく二部構成になっています。

最初の事件は大勢が死んだ火事の話です(6人死亡は大勢だよね?)。この事件はいけにえの方と同じく多くの納得できそうな推理が出てきたなぁと思って読んでいたら、なんと途中から召儺の話になっているではないですか。
しかもQ少年自身までもその毒牙にかかり死んでしまう上、大量の殺人鬼が世に復活し場面が切り替わるというなんとも面白いスタートとなりました。素直に読んでいて楽しかった。大怪獣バトル感がありますね。

後半はvs復活した殺人鬼です。そしてここで頼もしい助っ人であり、死んだQ少年の体を借りた名探偵が出てきます。
本当に無駄なことなく展開が進んでいくので怒涛の展開って感じですよね、この人の作品は。閑話休題というものが存在せず、人間の心情すら極限まで削られている。

あいまの二事件は省略して最後の事件へ行きましょう。
最後の事件で最初の火事があった召儺の地へ戻ります。ちなみにこの犯人であったときおの乗り移り先は流石にわかりました。手法は置いといてですけど。
最後の事件に関しては名探偵が間違え、はらわた君が当てるという次世代へのバトンタッチでしたね。相変わらず設定が凝っており、答えになるパーツがどこかしらに配置されている美しさはいいですよね。



というわけで、読んでいて面白かったです。

そうなんですよこの作品。どんなに読んでも感想が面白かったと凝っていたとか上手かっただけなんですよ。

いけにえで自分が感じた心のモヤにこの作品を読むことで気づきました。

結論から言うとこの作風は自分には合わないんですよね。
なぜかというと、『人を殺すということに対して描かれる人々の感情が薄すぎるから』です。

人を殺すということは普通は物凄い感情の揺れ動きの果てにあるものです。(だからこそ零崎人識みたいなやつがより人を惹きつけるんだと思います。無心で人を殺せるわけないじゃないですか。)
自分が殺人事件に求めている面白さはトリックなんかじゃなくて『動機』なんですよね。
人を殺すという激情の果てにあるものが人を引き付けるのはやはり普通じゃ感じることのない感情だからだと自分は思っているわけです。そして殺しに至る過程やその瞬間に著者の思いやテーマ、哲学を感じ取ることが好きなんです。
自分がこの作品に対して感じていたのは、表面においしいパウダーがつけられた味のしないスポンジを食べた感覚なんですよね。作者のテーゼを感じ取れず味気が無いんです。余韻がないんですよ。自分が読んだこの二作品は。

今作の最初の事件はそういう意味では好きでした。あの一事件をもっと深く登場人物の感情に寄り添って濃密に、その中に作者の哲学を込めて描く方が個人的は殺人事件として面白かったと思わざるを得ないです。あの後の事件達は大怪獣バトル的面白さはあっても、ミステリーとしては味気なさすぎるので。


長くなってしまいましたが、自分の思いは吐き出せたので満足しました。
ただ、あくまでも一意見であり、トリック好きの人を否定するわけではないので悪しからず。トリックやパズルという視点で見たら本当によくできた作品です。そこにケチをつける人はいないでしょう。


ということで今週読んだ本は『名探偵のはらわた』でした。
白井智之さんの新作はこれからはチェックしようと思っています。

次に読む本は西尾維新の『少女不十分』です。
最近西尾維新の新刊が無くてさみしいですね。『暗号学園のいろは』も既刊分は買ってしまったので旧作で繋いでいます。

まだまだ積読でエルメロイ二世の冒険や京極夏彦の作品があるので、楽しみは続きます。


それでは最後まで読んでくださった方いらっしゃればありがとうございました。
著者Twitter:まがしき @esportsmagasiki

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