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士郎正宗の難解さを解きほぐす 攻殻機動隊プロローグ 後編

 前編は公安が秘密会談に突入していったところで終わった。その続き

攻殻機動隊 3 ①

 「やめんか!誰が撃てと命じた!?」(自分の立場と口先で切り抜けられると信じている。交戦は無駄にリスクを高めるだけ)

 「動くな!」「外交官!免責特権だ!責任者を呼べ!!」(外交官は訪問先の国の国家権力に逮捕・抑留・拘束されない。そのほかにも特権があるが、ここでは割愛)

「極東通商代表部に、商務省の次官殿と組合幹部か……」(中国の内閣は国務省と呼ばれる。経産省は商務部。極東通商代表部とは、商務部の幹部か、アジア開発銀行=AIIB の幹部)(商務省=経産省、次官は大臣(お飾り)を除いて省庁のトップ)

攻殻機動隊 3 ➁

 「この様子は外務省や防衛庁も見とる。やっとで貴様を本国に送信できるだけの証拠を手に入れたというわけだ←ペルソナノングラータで」(外交官は、国をあげてブラックリストに入れないと追い出せない。このブラックリストをペルソナ・ノン・グラータとよぶ。日本では、杉原千畝が満州鉄道絡みでロシアからペルソナ・ノン・グラータをくらっている)

 「その前に召喚状が届くだろう。外交問題に配慮して」(中国はお前たち民主国がトロトロ議論している間に、さっさと自分を帰らせるだろう。そうすれば外務省が躊躇して、結局私はお咎めなしだ)

 「商務省の伊藤次官には審問に出て頂こうか」(審問とは国会審問のこと。国会審問で嘘をつくことは許されていないし、違反の際には罰則がある)

 「前首相爆破の件で会談場所の情報が漏れたルートについても詳しく供述してもらうためにな」(前首相の爆発事件が先日にあったことがここで分かる。対テロ組織である公安が動いていたのはこのため。冒頭、一般人がテロについて「またか」と言っているが、それも伏線だった)

攻殻機動隊 3 ③

 「それは不可能だな(中略)彼は亡命を希望し受諾され、宣誓書にもサインしとる」(前首相の爆殺にこの男が絡んでいる。秘密保持のために伊藤を連れて帰ろうとしている)

 「いつ!?」「答える義務はない。したがって我が国は国際方に基づき彼を保護し連れ帰る権利がある」(国際法では、政治犯の亡命に亡命希望先の国が応える権利がある。いかれた国家の政治犯は英雄の可能性もあるからだ)

 「では国際テロ防止法に基づき伊藤元次官の引き渡しを要求する」「書面が送付されたら中央と検討し返答する。ちなみに亡命の書類は大使館にある…後日コピーを転送させてやろう」(荒巻は伊藤をテロ犯と解釈して身柄を要求している。中国の男は、とにかく時間を引き延ばして状況をうやむやにしようとしている)

 「いいのか伊藤元次官。暗殺されるぞ」(この状況をうやむやにするのに一番手っ取り早いのは、あらゆる証拠を握っている伊藤を消すこと。中国に伊藤を連れて帰りさえすれば、翌日には高級ホテルの一室で謎の突然死か、自殺が起こるだろう)

攻殻機動隊 3 ④

 「我が国は平和主義の文明国だぞ」(中国やロシアは実際にこのようなセリフを今でも使っている)

 「あらそう?」

謎の声がすると、男に銃痕らしきものが浮かび、男が爆破

攻殻機動隊 4

 「何だ!何だ!?」「窓の外だ!」(狼狽ばかりの伊藤次官と、状況についていける荒巻とその部下たちの優秀さ)

 「探知機に出てないぞ⁉」「2902熱光学迷彩⁉」(通常の探知機に引っかからない=最新鋭で特別な装置。この犯人はおそらく軍の最新装備を使っている。公安以外の国家権力が動いていること、しかもそれが軍の特殊部隊であるということが荒巻を驚かせている。管轄の奪い合いの面もあるだろう)

 翌日その女(女形のサイボーグ)は内務大臣のオフィスに座っていた。前首相発行の暗殺命令書を持って……。唯一確かなのは危機管理の必要性と、草薙素子少佐と名乗る彼女(達)の(どうせ偽名だ。昔は三佐と言った)能力だけだった……

 (内務大臣=警察のトップ。国内の治安活動の最高責任者。この時素子が持っていた命令書は本物かどうか非常にあやしい。どんな理由があって中国の幹部の暗殺を命じたのか。彼はこの国の首相暗殺の主某者ではあるが、それを事前に察知していたのだろうか)(そして、荒巻は、素子が単独行動であの場にいたとは思っていない。プロはチームを組むことを知っているからだ。そして、あの場で誰にも気づかれず暗殺を成し遂げた素子(たち)に高い評価を与えている)

ここまでのまとめ

 公安部隊が会談場所へ突入

 伊藤次官の処遇を巡って荒巻と外交官が論争をする。伊藤の身柄が欲しい荒巻と、時間を稼ぎたい外交官

 透明な誰かによって外交官は暗殺される

 荒巻と草薙素子の邂逅

最後に

 どうでしたか。たった四ページのまんがに、凄まじく圧縮された情報が込められていたでしょう。このくらいわかって当然だよ、というあなた。あなたは少数派ですよ。私の経験として、学生時代漫画版を読んでも、ざっくりとした大筋以外ははっきり言ってチンプンカンプンでした。

 こうしたやり取りが、一冊続くのが攻殻機動隊です。しかも、士郎正宗独特の生命観や宇宙観が絡んでくるので、話はより分かり辛さを増していくのです。一番分かり易い一巻はともかく、1・5と2巻は噛み砕くのにそうとう顎の力がいります。

 映像化されていないそちらも、いつかぼちぼちと記事にしてみようかと考えています。

 攻殻機動隊は難解ですが、世界観や人物造形、彼らの会話のやりとりに魅力や、カッコよさが溢れています。

 この作品の魅力が、ひとりでも多くの方に伝わったら幸いです。いいな、と思ったら原作を買ってください。

 

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