見出し画像

400字ショートショート「オリオンに恋した乙女」

宇宙には網が吊るしてあるのをご存知ですか。細い細い銀の糸で編んだものゆえ、そちらからは見えないでしょう。私はその網にもたれかかって、昼夜問わず竪琴を弾いています。
詳しくは思い出せないのですが、前世では不幸せだったらしいのです。それを憐れんだ神様が私のなきがらを掲げて星座に変えてくれたんですって。通りすがりの彗星さんから聞きました。数百年も前にね。
「あの子、やっぱり美人。クレーターの配置がいいわ」
ここは退屈です。楽しませてくれるのは、決まった軌道を回ってくる衛星さんくらい。私はいつも、心の中で彼女たちの美貌を品定めしています。
「ああ、何かと思ったら」
足元をかすめたのは地球から寄越されたロケット。のんびり揺蕩うその先に目をやると、男性らしき星座が見えました。片手には棍棒を、もう片方には獅子の毛皮を携えています。
「あの方に昔、恋をしていた気がするのだけど」
そう口に出した時、なぜか涙が溢れました。