童心に不安の影を落とす ― トランプ国軍とネズミの軍団 ― メルヘンバレエ
当時オーケストラで使用するのは珍しかったチェレスタは、くるみ割り人形の本格的な作曲に取り掛かる前に旅をしたときにフランスで出会った。当時の日本でも物珍しいお菓子だった金平糖にぴったりである。
その「金平糖の踊り」や、「花のワルツ」が並ぶ第一組曲だけを聴く限りだと、愛らしい御伽バレエのイメージを強くされてしまうが、第2幕ではロシアの冷たい冬の風景が広がる、雪の精の踊りに始まり、子供部屋のお菓子を巡って、ネズミの軍隊がおもちゃの国を荒らし回る。我慢静まらずトランプ国王は軍隊でこれに対峙する。この争いで強い戦力となったのが、新しくクリスマスプレゼントとして加わったくるみ割り人形の兵隊だ。結果、例年以上に苛烈な騒動となる。物語の主役である少女は、トランプの国王軍には足手まといの面倒な存在で、傍観者でしかない。
楽曲に味をつけることはしないが、スコアを真摯に読み込むアンセルメの姿勢は、彼が数学者でもあるからこその性分だろう。
数学が型を第一にするように、異を衒うところはない。伝統のメインストリームにありながら、それまでの慣習を見直す特質がこの「くるみ割り人形」にも明快にある。
バレエ全曲盤ではないが、一般的な第1組曲に、第2組曲を合わせて、バレエの本質を聴かせてくれる。第1組曲を分解したり改ざんすることもしていない。が、チャイコフスキーがバレエ上演版で指定した楽器遣いをしている。この1枚、両面でスペクタクルを堪能できる。
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「そんなアスリートおへそで…放っておきませんよ、誰もが。」
と、言われ、、、求める男たちに、おへそを売りました。