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太田蒼生「何者」

今の彼を私がなんと表現すればいいのか、正直まだわからない。ただはっきりと言えることがあるとするならば青山学院が優勝を目指すうえで彼の走りは「不可欠」。そう言い切っていいだろう。多くの大会で外さないだけの安定感、主要区間での力走。

原晋監督が「駒澤の対抗馬は自分たち」と言い切ることができるのは、他ならぬ太田くんの存在があるからではないだろうか。そんなことを思ったのである。だが、彼から「絶対的エース」としての存在感はまだ感じられない。

そんな彼をどう形容すればいいのか、まだ分からないのだ。


印象的な活躍が多い箱根駅伝

そんな太田くんの箱根駅伝での活躍は極めて印象的なものが多い。1年生にして主要区間の3区として起用された彼は、首位を走る駒澤大学を追い詰めそこから追い抜いていった。そこから差を付けた青学は記録的なタイムで総合優勝を成し遂げるに至った。

前回大会では準エース区間の4区として起用されると中央大学と駒澤大学の牽制によってペースが落ちている中で猛追。その後中継所までの500メートルを鈴木芽吹くんと激しく競り合い、わずかな差で敗れる形となった。このほんの500メートルが、青山学院が首位に立つことができた瞬間でもあった。最終的に山で差を付けられた青学は初優勝となった91回大会以降で3大駅伝のいずれかのタイトルを逃すという屈辱に見舞われたのである。

それを考えると太田くんの区間でレースが決まる。青学の命運を担っているのは太田くんだと言い切ってもいいくらいだ。

しかし、どうにも不思議なのだ。どこか太田くんはエースというオーラをまとっているように、個人的には思えないのである。それは青学ならではの事情なのかもしれないとも思うのだ。

エースにならなければいけない選手たち

それは本来エースにならなければいけない選手たちが青学には多くいるからだ、と思う。

例えば佐藤一世くんはそのポテンシャルの高さをもってすれば近藤幸太郎選手たちを早い段階で脅かさねばならない存在だったし、鶴川正也くんは久保田和真さんや田村和希選手のような「駅伝男」としての活躍を望まれていたはずだ。

そうしたポテンシャルの高いはずの選手たちの伸び悩みに近いところから(とはいっても着実に成長していると思うのだ)、太田くんは着々と実力を付けてきた。1年生から台頭してきたとはいってもその鮮烈なデビューの仕方は箱根路を沸かせた田村和希選手を彷彿とさせる。

不利な流れを一気に変え、そして青学へと引き寄せていく。そういった役割が太田くんには求められていて、もしかするとエースというよりは「ジョーカー」的な存在。原監督の中でも、ゲームを変えられる切り札的な存在として彼を期待しているのではないか。

そうすると、太田くんという存在が埋もれてしまう恐れもある。しかし、ここにきて青学がまだ「脅威」と言われている理由。そして「ジョーカー」として輝ける存在となれる理由があるのだ。

黒田朝日の台頭

出雲駅伝で5位、全日本大学駅伝では3分34秒差を付けられて2位に終わった青山学院において、まだまだ「戦うことができる」と光明の存在となっているのが2年生の黒田くんだ。

前回の箱根でも若林宏樹くんの代替として5区として考えられていた中で、故障で出走が叶わず。結局大きなアドバンテージとなるはずだった山登りで中央大学と駒澤大学に後れを取る形となった。

もし2区に近藤選手、3区がよこたっきゅうこと横田選手でなく、例えば太田くんだったとして、4区が黒田くんで5区が若林くんだったなら……。そう考えると駒澤大学の3冠も相当な綱渡りだったように思えてならない。復路で横田選手と岸本選手が起用できるような万全な状態だったならば。

そう考えると黒田くんがエースとして君臨してくれば、まだまだ青学も決して油断ならなくなる。その中で太田くんというゲームの流れを変えられる存在がいる。それだけでも他大学に脅威を与えることが十分にできる。

元より転んでもただでは起きないのが青学の強み。そして、その中でどこで切ってくるか分からない不気味さを秘めているのが太田くんだ。

そして一つ個人的な勘を一つ。
青学が2区に黒田くんを置いて、当日のエントリー変更で3区か4区。ここに太田くんを起用して来たら原監督は勝算ありと考えていい。当然、全選手が体調万全であればの話ではあるが。

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