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内田隼太「笑顔」

多くの大学から流れる評価としてあげられるのは「今年の法政大学は侮れない」という言葉。全日本大学駅伝では予選敗退、10区でまくったとはいえ東海大学にアクシデントが無ければシード落ちしていた可能性もあった箱根駅伝。
しかし、その中でも鎌田航生選手卒業の穴を埋めて余りあるほどチームとしては強化が進んでいるようだ。

それは唯一10月に出場した出雲駅伝にて坪田監督が「目標の5位には届かなかったんですけど、十分に合格点を与えられる結果だったのかなと思います」というところからも裏付けられる。

そして、その中で誰よりも結果を出したのが内田隼太くんであった。

ライバル・丹所健くんに競り勝つ

内田くんの出身校は法政大学の付属校で神奈川にある法政大学第二高校。神奈川もまた駅伝の激戦区であり、全国に行くには至難の業ともいえる高校がひしめく。

駅伝では全国と縁がなかった東京国際大学の丹所健くんとは同世代でまた彼は一度だけ都大路を走っていた。だが、丹所くんは神奈川県の高校生記録を持った当時から評価が高かった選手の一人。一方で内田くんも日体大陸上記録会などで好記録を出したものの、必ずしも箱根駅伝ファンからの知名度が高いとは言えなかった。

「知る人ぞ知る逸材」と言ったら語弊はあるだろう。だが、神奈川でしのぎを削って来た両者は今、それぞれ「東京国際大学のエース」と「法政大学のエース」という大きな看板を背負って駅伝で走るようになれたのだから。

そんな内田くんと丹所くんは出雲路でエース区間の3区を走る。田澤廉くんの独走で目立つことは少なかっただろうが、内田くんはなんとレース中に笑っていた。

それは、自らの力がついて前回箱根で3区区間賞を取った丹所くんに勝てたからか、自分なら行けるという自信になったからか。勿論彼は前回の箱根でも1区区間9位と実力がないわけではない。

その彼が丹所くんに勝利できたことは自信となっただろう。

法政大学史上初の6分台ランナーに

恐らく、箱根で彼は2区を任されることになる。そして、出雲後も各記録会で自己ベストの更新など順調に成長する姿もどこか頼もしい。
飄々としながら法政大学記録の1時間7分11秒を出した鎌田選手の記録を彼はきっと塗り替えることも出来てしまうかもしれない。

実際に坪田監督も「箱根駅伝の2区を見据えて出雲では内田を3区に起用しました」と公言するほどで、その期待の高さはとてつもない程だ。当然駅伝では気象条件もあるので何とも言い難い部分はある。だが、内田くんの現在の能力からすれば十分そのミッションを達成できるポテンシャルはある。

いや、むしろ……坪田智夫監督でも駿河台大学監督の徳本一善さんでも成し遂げることが出来なかった1時間6分という数字も達成する可能性すら秘めている。型破りな法政大学のレーススタイルは「オレンジ・エクスプレス」と呼ばれる。

思った以上に軽々と、しかしその中に積み重ねてきた重みと共に彼ならばその扉をこじ開けることができると私は信じる。

苦しみの中に生まれた「笑顔」と共に

そんな内田くんの卒業後はトヨタ自動車に内定が決まっている。近年法政大学の卒業生の活躍は目覚ましく、恐らく内田くんも彼らと同じように目覚ましい活躍を見せることだろう。

しかし、トヨタは言わずと知れた「強い」ランナーたちが勢ぞろいする精鋭集団だ。卒業後も大八木監督の指導を受けつつ競技を続ける田澤廉くん、服部勇馬選手に西山雄介選手といった今現在も世界を体験している選手たちと研鑽を積むことになる。

しかし、彼のような厳しさや苦しさの中に身を投じた時に生まれたあの笑顔。それがあれば必ず選手として一つ「何か」を残すことができることだろう。決して大学1年から出ていた「エリート」ではないからこそ、叩き上げのエースだからこそ。

きっと最後の箱根も笑顔で襷を戸塚へと届けてくれるはずだ。

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