見出し画像

伊豫田達弥「一人」

順天堂大学のエースと言えばだれを思い浮かべるだろうか。
恐らく大半は三浦龍司くんの名を挙げるに違いない。確かに三浦くんがいるときといない時で順天堂大学というチームは大きく様変わりする。それは間違いの無い事だ。
だが一方で「駅伝」という競技に関して言うならば、彼は絶対的エースと言い切ることは出来ない。それはチームスポーツだからではなく、彼よりも確実に結果を出すランナーが順天堂大学に居ることを忘れてはならない。

それが伊豫田達弥くんなのだ。
順天堂大学入学後の駅伝での実績は目を見張るものがある。2年生で出た箱根駅伝では3区7位、前回大会では3区3位と大変安定した成績を残している。
一方、三浦くんは箱根駅伝でそれぞれ1区区間10位、2区区間11位という結果となり「チームを押し上げる」という駅伝が出来たとは言い難かった(もちろんこれは三浦くんは本来3000メートル障害の選手であるため致し方ない面もある)。

そんな彼は言ってしまうなら「非エリートランナー」。むしろ順天堂大学に入ってから駅伝男へと大きく成長したランナーの一人なのだ。

陸上熱はそこまでなかった

伊豫田くんの出身は広島県。駅伝の名門校である世羅高校がある中で、敢えて彼は先輩を指導しかつ勉強も両立できることを考えて広島県立舟入高校に入学。都大路出場こそ叶わなかったもののトラック競技でインターハイ出場を勝ち取り実績を出していく。

しかし伊豫田くん自身は「勉強とも両立できる」という事を考えていたことからも当時を振り返り、そこまで陸上熱も高くなかったと振り返る。
「公立高校で勉強を大事にしたいなと考えていた」と語るのは、陸上長距離という面で世羅高校という絶対的に強い学校があったからなのだろう。
理系を選択し、パソコンや建築に興味があったと語っていた彼は陸上を選択していなかったら建築の道に進んでいたかもしれないと振り返る。その一方で、高校2年と3年でトラック競技では確実に実績を出していた。

それを見ていた長門俊介監督にスカウトをされたことがきっかけとなり、陸上で進学することを考え始めた彼は次第に「陸上でも全国で戦える」と意識をし始めていく。決して陸上において強豪とは言えない舟入高校での活躍もまた、全国レベルの選手たちとのレベルを比較するうえでもちょうどよかったのだろう。

かくして彼は順天堂大学に進学する。駅伝デビュー戦ではブレーキとなった面はあったものの、それ以降で大きなブレーキを起こすことなく非常にハイアベレージな成績を残すその様はまさに「仕事人」そのもの。

そこまでではないと述べていた陸上熱もトラック競技で関東インカレ10000メートルを制するほどになった。卒業後も名門の富士通に内定が決まり、国内屈指のランナーたちと更なる研鑽を積むこととなりそうだ。

伊豫田くんの「強さ」とは

駅伝好きからは駅伝で結果を残すランナーのことを「強い」と称されることがある。伊豫田くんは間違いなく「強い」ランナーなのだが、彼の強さとはどこにあるのだろうか。

それは「一人でも積み重ねられる」という事だと私は思う。彼の高校である舟入高校は先ほども述べたように強豪ではない。それだけに彼は高校時代はひとりで走ることが多かったのだ。
大学に入って戸惑ったのは「集団でするペース走」だったと言うほどだから相当だろう。

しかし、その中でもインターハイ出場するほどの実力を身に付けることが出来たのは自分で走るという事を絶えず行ってきたからではないだろうか。選手によって当然環境をそろえてあげることは大変重要である。ただし、強豪校に進学=選手の実力を伸ばすということにはならない。

たった一人だからこそ、できることがある。特に陸上は一人でやるスポーツだからこそより重要なのだ。伊豫田くんにとってその下地を作り上げたのが高校時代であり、そしてそれが今も生きているのではないかと思うのだ。

最終学年では3区を希望している。レースの展開から言うと、順天堂大学は序盤に出遅れることが多い。その都度、伊豫田くんの激走がチームを巻き返しさせてきた。

「一人で走る」という強さを持っているからこそ、駅伝の流れを変える男として今回も大いに期待が持てるだろう。

「湘南の風」になれるか

一つ上げるとするならばだが…、例えば三浦くんが吉居大和くんや田澤廉くんらと競り勝ち伊豫田くんが戸塚中継所にてトップで襷を受け取ったとしよう。
その時彼は、どんな走りを見せてくれるのだろうか。そこは後ろから追いかけてくる選手こそ居れど、前を負うべき選手が居ない。一人で彼はどこまで駆けていくのだろうか。

後続をどこまでも突き放すのか、それとも……。いずれにしても3区を希望する彼の走りが最も重要となるだろう。もし彼が前回のようなスピードを見せることが出来たならば。
順天堂大学の襷は箱根の山をトップで駆け抜け、それから大手町に至るまで。誰にも抜かれることなくゴールする。そんなことだって叶うだろう。

そうなった時の世界線を心の中で望んでいる。

さて、私は高望みしすぎだろうか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?