見出し画像

小林篤貴「開花」

久々に神奈川大学から上位を脅かす選手が現れてきた。鈴木健吾選手以来の衝撃と言ったらいいだろうか……。決してその才能は高校時代から発揮されていたわけではない。

むしろ大学、それもこの1年近くでめきめきと力を付けてきたランナーといえる。その成長の要因にはいったい何があったのだろうか。


怪我や挫折が多かった大学3年間

元より高校時代から決して注目されてきた選手ではない。彼については下記記事に大変詳しいものの「決してエースにはなれなかった選手」だったのだ。

神大入学後はトラックでもタイムは大きく向上させていくものの怪我も多く、その才能を発揮するには至らなかった。一方で2年時に出場した箱根駅伝では9区区間9位ながら1時間09分57秒という神大記録を出している。ロードの適正は高く、そして駅伝でも決して外さない。

山崎諒介選手が最高学年となる3年生にはさらなる躍進を期待しても不思議ではなかった。しかし、前回大会の箱根駅伝予選会で神大はまさかの予選落ちを経験してします。

1区出走経験のある巻田理空くんも「心が折れかけた」と語るほどの強い挫折を小林くんが感じていても何も不思議ではなかった。しかし、その悔しさをばねに主将となった彼はさらにタイムを向上させていく。

才能が開花した2023年

怪我がありスタミナを積むことができなかった3年生とは打って変わって安定して練習を積み重ねてきた今年は大きく様変わりした。箱根駅伝予選会では1時間02分12秒と自己ベストを大幅に更新した上で全体14位をマークした。

10000メートル走でも神奈川大学記録を塗り替え、速さと強さを持ち合わせたランナーへと着実な成長を遂げていた。そして全日本大学駅伝3区で日本学連選抜の選手として快走を見せる。

元々出走する気もなく準備なども予選会の疲労が抜けない中で不十分だったという小林くん。その中で3区区間3位という好成績をたたき出したことは駅伝ファンたちにとっても一躍注目すべき選手として名を上げるには十分なレースとなったことだろう。

無名の選手から一躍、全国区の選手へと躍り上がる。かつて大学の先輩にあたる鈴木健吾選手がそうだったように、大後監督は無名の選手を鍛え上げて戦う選手に育成することに定評がある。

その大後監督もこの学年には手を焼いた様子だ。

「私の指導理念が揺さぶられる学年でした(笑)」

この道30年、すっかりとベテランの域に達した大後監督でさえ、あまりの個性派集団に手を焼いている様子だった。SNSで積極的に音楽を無料配信する佐々木亮輔くんに実力派ランナーだった巻田くんに宇津野篤くん……。

個性派集団の中でそれぞれのための個別の練習メニューを用意してタイムこそ向上してきたが、現在は箱根に向けてどうベクトルを合わせていくのか苦心している様子。決して選手層が厚くはない神大において監督としての手腕が問われると自らが語るように目標としているシードへと向けて虎視眈々と牙を研いでいる。

これまで主将さえ経験したことが無かった小林くんもまたどこか風変わりな一面を持つ。既にNTNに内定が決まっている彼は「大好きな声優さんのイベントに行けないのが残念」とインタビューで語るほど。

どこか学生らしくのびのびとした神奈川大学らしいと言えばらしい彼だが、レースに話題を向けられると素直に全日本大学駅伝で区間3位だったことを悔しがる。そういった負けず嫌いな一面も持っている。

彼が区間賞でなくても区間1ケタ台で走ることができれば、ポテンシャルある選手たちが多くそろっている神奈川大学。シード権獲得も決して夢物語ではないだけに、果たしてどうなるだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?