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藤原正和「苦闘の6年」

2位で悔しいと思えるチームと、果たして中央大学はなることができたか。それとも……次はやれると思えるチームになれたか。

この選択肢どちらが正しいか、というのではない。そういう次元に中央大学が戻ってきたという事実に、私は感慨深さを覚えた。率直に言えば、ここまでのチームを作り上げるとは思わなかった。
6年前、右も左もわからないまま監督に就任した中で迎えた箱根駅伝予選会。前回大会、1区で快走を見せ、鉢巻き姿も印象的だった町澤大雅さんなどもいた中で87年間続いていた連続出場記録が途絶えてしまう。

そこには「かつてのエリートランナー」だった彼からは想像できないほど厳しい6年だったことがよくわかる。あの日の立川は、中央大学にとって絶望を強く味わった瞬間でもあったからだ。

堕落した名門

悲痛に満ちていた。

現在も九電工で活躍する舟津彰馬選手の主将あいさつは難しいと思っていても決して古豪である以上、立ち止まることや挑戦を止めてはならないことへの苦しみに満ちていた。

当時の中央の状況を語る記事は多く出ている。最上級生でも設定距離を走ることができないほどの練習不足、ポイント練習をきっちりこなすことができたのが大学入学前に練習参加した畝拓夢選手だった……という競技面だけでなく、寮での生活に至るまでクローズアップされ堕落したことを良く示されていた。

1985年から28年間続いていた連続シード権が途切れ、総合優勝も1996年を最後となった名門は途中棄権を境に「堕落」の一途をたどったのはそこで一度、気持ちが途切れてしまったからなのだろう。それでも挑戦をしなければならなかった。

その中で火中の栗を拾うことができたのは、レジェンドでもある藤原正和さんしかいなかったのだろう。初マラソンおよび大学生マラソン日本記録を樹立(現在歴代2位)し、2度の世界選手権出場。箱根駅伝でも2度の区間賞を獲得した経歴を持っている。

しかし、現役引退と同時に就任した母校は彼にとってあまりに酷だった。だが、藤原監督はその中でも「できること」を積み重ねていった。

重ねた育成という実績

いくら名門といえど、そこで自分が飛躍できるかどうかというのは「○○選手の出身校」というイメージがあることは重要だ。特に新しい選手であればあるほど良い。

幸いなことに前監督の浦田春生さんがスカウトとして残り、優れた才能のリクルーティングが続いていたことも幸いしていたことは見逃せない。その中で羽ばたいていったのは学生にしてMGC出場権を獲得した堀尾謙介選手であり、HONDAでニューイヤー駅伝優勝に貢献した中山顕選手だった。

舟津選手や田母神一喜選手のようにトラックで成果を残した選手も出てきた点は見逃せない。藤原監督曰くメディアの取材では「後悔している」と思い返す時期ではあったものの、それでもそうした選手の地道な育成が徐々に実を結んでいく。

そこに現れたのが、吉居大和くんだった。

「C」を蘇らせ「C」を羽ばたかせられるか?

特大な才能を持っていることは前回・前々回の箱根駅伝で織り込み済みだ。とはいえ、1年次こそ思うような走りができず往路は低迷したが、復路で3位に入賞する大健闘を見せる。

2年になると1区で区間新記録を樹立し、その勢いのまま6位入賞を成し遂げた。そして……今回は2位に入賞した。あの涙の箱根駅伝からわずか6年での復活劇である。

近年低迷する大東文化大学や日大など、一度深みにはまるとなかなか抜け出せなくなってしまうのもまた古豪の苦しみといったところがある。かつて隆盛を極めた山梨学院大学も近年は大変に苦しんでいることからも、いかに中央大学の復活に至るまでの動きが驚異的なものか見て取れるはずだ。

当然そこには大学の予算というのもあるし、特待生という問題もある。MARCHという日本の大学の中でも古くからある名門の大学ともなればなおさらだ。だからこそ、藤原監督の手腕と立て直した情熱はもっと評価されるべきだと思う。

だが……それでもあと1分42秒足りなかった。どの区間も致命的なミスはなかった。吉居大和くんも中野翔太くんもWエースとして区間賞という走りをすることできっちりと役目を果たすことができた。
復路の4年生も意地を見せて最後まであきらめることなくタスキをつなぎ続けた。しいて敗因を挙げるなら4区で鈴木芽吹くんに後れを取ったことだが……吉居駿恭くんは1年生でしかも区間5位だ。責めるべき結果でもない。

単純に駒澤大学の強さが中央大学の強さを上回ったという事実。それは何よりの原動力になる。
次の100回大会でも経験者が残る上に、さらなる選手たちの強化が進めば……。再び白地に赤のCのユニフォームが箱根路の先頭を快走することは間違いない。

苦闘の6年を乗り越え、歓喜の涙を流す1年に。2023年という新しい時代へ向け、藤原正和監督と中央大学の挑戦の1年はもう始まっている。

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