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宗像直輝「景色」

昨年のもう一つの箱根駅伝。遊行寺の上り坂を登っていく中、坪田智夫監督は宗像直輝くんにこのように声をかけたシーンが映し出された。

「ここからギアチェンジすれば区間賞をとれる!お前はそれだけの練習をやってきたんだ!!」
それに対して宗像くんは右手を伸ばして親指を立てた。そこから猛スパートを仕掛けるとなんと区間賞を獲得。あと10秒のところまで目標とした5位以内という目標を逃したものの、チームとしても上昇気流に乗っていた。

はずだったのだが……。


決して芳しくない夏と秋

全日本大学駅伝の予選会で13位で予選敗退を喫すると、出雲駅伝でも9位でフィニッシュと可もなく不可もなしという結果でこれまでの駅伝を過ごしている。

主将であり、法政大学の流れを変えてきた宗像くんも出走叶わずその苦闘を眺めることでしかできなかった。しかし、冬に向かうにつれてチームの状況は上がってきていると宗像くんはじめチームとしても雰囲気は明るい様子。

がっつり練習させられたと語るチームは着実にタイムを伸ばし、エースの松永くんの復調と合わせて上昇気流に乗っかっている。その一方で、宗像くんは競技者人生で初めてとなる故障に見舞われていた。

先輩後輩関係なく意見を言い合える環境を作る中で心労もたたったのだろう。そうした結果が故障へとつながってしまったようにも感じられる。幸いなことに着実に治癒しつつある彼は学生最後の駅伝を前に、大きな決断を下している。

「引退」という選択

この大会を最後に、彼はシューズを脱ぐ。だからこそ、思うような練習ができず苦しんだとしても彼はチームをまとめ上げ、そしてチームのために心を砕いてきた。

そんな彼が希望しているのは区間賞を取った8区ではなく10区。曰く「競ったときのラストスパートならだれにも負けない自信がある」のだという。思うと前回の箱根、遊行寺の上り坂でのギアチェンジから一気に加速し区間賞を獲得している。

後半でしっかりと粘って戦える。その強さはまさしく後半向きであり、心強い存在だ。チームとしての力も箱根当日になるまで一気に伸びていくことだろう。そんなチームのラストを飾るのは、確かに主将である彼にふさわしいようにも思えてならない。

ゲームチェンジャーと呼ぶべき選手が今年の法政にはいない。だが、勢いに乗ると止められないのも法政だ。そう考えると序盤から最後まで。その流れをとどめるわけにはいかない。

創り上げた流れを全員の力で一気に押し切る。思うとオレンジエクスプレスはそういうチームだった。

「異端チーム」が挑む景色

オレンジエクスプレス。法政大学の駅伝を語る上で欠かすことができない、どこか尖ったそのチームはそれとは裏腹にどこか泥臭い。だが、必ずハマったときには確実なゲームチェンジャーがいたものだ。

あえてゲームチェンジャーになりうる存在が誰かと思った時、あの上り坂右腕を伸ばして親指を立てた宗像くん以外にはちょっと想像がつかないのだ。

おそらく今シーズンのエースは松永くんだろう。彼が2区を破綻なく走り切り、どの選手も巧みに走り切って宗像くんにタスキが渡ったとき。すさまじい化学反応を起こすことを私は期待したい。

青木涼真選手と坂東悠汰選手擁して2年連続6位入賞がこれまで坪田監督が経験してきた駅伝の最高順位だ。だからこそ、5位という目標は悲願でもある。それをまたあの時と同じように。すべてを絞り出してゴールテープを切ったとき。

坪田監督も、宗像くんも。きっと見たことのない景色を見ることができるのだろう。


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