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オスカー・デラホーヤvsアイク・クォーティ

当時、自分の家に衛星中継があったらとか、ストリーミングサービスがあったら見てみたかった試合はたくさんある。セリエA全盛期からロナウジーニョが居たエスパニョーラ、マグワイアやボンズが全盛期だったメジャーリーグ、マイケル・ジョーダンのいたNBA。

そして、自分が友人に勧められて見たデラホーヤ対クォーティ。今回紹介するのはこの試合だ。

両選手の実力

では、1999年2月13日に行われたこの試合において両者の立ち位置はどういったものだったのか。

オスカー・デラホーヤ

アメリカが生んだボクシング界のスーパースターにして、後に史上初となる6階級を制覇する歴代最高クラスのボクサー。
1992年のバルセロナ五輪で金メダルを獲得したアマチュアエリートは、当時の強豪であったフリオ・セサール・チャベスにパーネル・ウィテカーに勝利を収め、29戦全勝。
既にスーパーフェザー級・ライト級・スーパーライト級・ウェルター級を制覇し、最強の名を欲しいままにしていた。

何よりも魅力は勝負所のラッシュ。一発一発のパンチよりもここぞのラッシュで相手を圧倒する戦いぶりが持ち味だ。

そんな彼が、当時のWBC世界ウェルター級王者だった彼は挑戦者としてクォーティを迎え撃つこととなる。

アイク・クォーティ

ガーナ出身のアイク・クォーティの武器は超強力なパンチにある。そして非常に硬いガードを持つクラシカルなスタイルもまた、武器である。左でも右でも決して変わることのない威力抜群のパンチで34戦33勝1分。KO勝ちも29を数えた。
突いたあだ名は「バズーカ」。その名の通りの破壊力を持っている。

彼はいわゆるオーソドックススタイル(右利き)の選手だが、左ジャブの威力の強さとして、格下の対戦相手に右ストレートを一切打たず左ジャブだけでTKO勝利を収めたというにわかには信じられないほどのパワーと実力を秘めていた(ちなみに対戦相手は東洋太平洋ウェルター級王者で、日本人選手を圧倒するくらいには実力がある)。

1994年6月から王座を剝奪される1998年8月までWBA世界ウェルター級王者として君臨したこのハードパンチャーとの戦い、実はデラホーヤが避けるのではないかという裏話まであるほどだった。

それだけクォーティの強打を警戒していたのだろう。中には力の落ちたビッグネームとばかり対戦していたことから、一部では批判を浴びていたデラホーヤのこのマッチメークは驚きを持って迎えられたのも一因だろう。
興行名は「THE CHALLENGE」。デラホーヤもクォーティも、この試合においては間違いなく「挑戦者」だった。

試合内容

結果から言えば、デラホーヤが2-1のスプリットデジションで勝利したこの戦い。だが、どちらが勝っても決して不思議ではなかったこの試合を文字で起こすのは、いささか難しい。どうかこの試合は動画などで見てほしいと心から思う次第であるが、敢えてマッチレポートを書くなら、こうなるだろうか。

嵐の前の静けさがあった序盤

稀代のスーパースターとハードパンチャーのぶつかり合いは、序盤から静かな立ち上がりとなった。ジャブの差し合い、互いの間合いに入ろうとしない冷静さ。互いに流れをつかむ前に、相手に流れを渡さない。腹の探り合いが延々と続く展開に。

ダウンを奪う時、力づくでは決して相手は倒れない。ボクシングの場合はタイミング・距離がとても大切になる。

鮮烈的なKOが多いドネアと戦ったフェルナンド・モンティエルもまた、彼のパンチは強くないと語る。それはドネアが「相手が倒れるタイミングで適切な距離で適切なパンチを出したから」生まれる物だという事の証左でもある。

「まだ倒れるわけにはいかない」からこそ、リスクを負って倒しに行くべきではないと両者は考えていたに違いない。
それが大きく動いたのは6ラウンドだった。

倒し、倒され

6ラウンド序盤、開始から前に出て圧力をかけたデラホーヤはコンビネーションを放ち、離れ際に左フックを当ててダウンを奪ったのだ。
しかし、ここぞとばかりに攻め立てたデラホーヤに大きな落とし穴が待っていた。

クォーティの左アッパーがヒット。
ダウンするゴールデンボーイ。彼の勝利を信じてやまない、ラスベガスのファンたちに大きな衝撃が巻き起こる。

序盤、互いに距離を取っていた両者はお互いが倒せる距離に入れば倒されるリスクがあることを分かっていた。だからこそ距離を取り、そして警戒し続けていたのだ。ダメージが大きかったのはデラホーヤだ。クリンチをしてどうにかこのラウンドをしのぐが、ここから流れが少しずつクォーティに傾いていった。

息もつかせない消耗戦

それ以降は、ややクォーティ優勢で試合を進めて行った。とはいえ、両者ともにダウンのダメージは深刻だった。
それは互いにリスクを負う時が今ではないと思ったのかもしれないし、確実に相手を消耗させていくことが先決と考えたのかもしれない。

だが、ダウンのダメージが徐々に抜けていったデラホーヤと虎視眈々と追い詰めるチャンスを狙うクォーティ。互いに目が腫れ上がり、そして互いに決め手を欠いたまま、流れが再びどちらに傾くかさえも見当がつかなくなっていた。

ドラマティックすぎる12ラウンド

その流れを握ったのは、デラホーヤだった。リング中央でグローブを合わせると、猛然と食って掛かったデラホーヤ。再びデラホーヤの左フックでダウンを喫したクォーティ。

それでも立ち上がったのは王者であったプライドだったのだろう。しかし力が入らないままロープにもたれかかってデラホーヤの攻撃を耐えるしかなかった。ところがデラホーヤもフラフラ。仕留めきるほどの体力は決して残っていなかった。

しかし勝負所のラッシュによって消耗しきっていたのはクォーティも同じだった。最終的に両者ともに倒しきるまでには至らないまま、判定へともつれ込んだ。結果は説明の通りである。

36分間にわたる濃密なドラマ

この試合はダイジェストではなく3分×12ラウンドの36分トータルで見なければならない試合だ。その瞬間の部分部分の切り抜きだけを見ても、決してこの試合の良さは分からないだろう。ぜひ調べて自分の眼で、この試合を確かめてほしい。

高い技術と心理戦が飛び交った序盤。大きく動いた中盤。終盤までの間にきっかけをつかもうとする心理戦。そして、ドラマティックなファイナルラウンド。クォーティに1年近くのブランクがなかったら、どうなっていたのか?

本当にそうしたことさえも結果に影響してしまったのではないか、と勘ぐってしまうほど僅差の好試合だったのだ。

その後6階級制覇を達成したデラホーヤは現在もスキャンダル含めて話題となるスーパースター。一方で、クォーティはベルトを取ることなく引退。明暗をくっきりと別れたのもまた、勝負ならではの厳しさを感じる試合だった。

たった36分で、これだけの明暗が分かれる試合だったという意味でも、名試合と言えるのではないだろうか。

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