ブロスと特集と番組表と
ブロスの定期刊行が終わって、ネットが始まった。
新しいフェーズに入ったわけであるが、ちゃんと過去の総括はしなければならないと思うので、自分なりに考えたことを書く。このミニコラムの続きみたいな話です。
ブロスが番組表を廃止したことは果たして正解だったのか。
いまだに自分の中で定まった答えが見つからない。
「ブロスはコラムがメインで番組表はおまけ」と言う人はたくさんいるけれど、その逆のパターン「番組表がメインでコラムはおまけ」の人も一定数いたはずなのである。具体的に言うと、「安価で番組表が見られればいい」という人。たとえば、新聞を取っておらず、ネットに慣れていないタイプの人(購読した最初のきっかけが番組表目当てだったという人は多いはず)。
で、番組表メインで買っている人はたぶん、「番組表がメイン、コラムはおまけ」とはいちいちSNSで言わないのである。なんならSNSやってないだろうし。ずっと買い続けているのに「松尾スズキ」という名前にまったく見覚えがない、という人も絶対にいたはずだと思う。
ブロスはそういう「サイレントマジョリティ」に支えられ続けてきたからこそ、特集やコラムの自由度がとりわけ高かったのだと思う。これは偶然そうなったわけではなく、おそらくこの雑誌を創刊するにあたって当時のスタッフがそう「設計」したのだ。表紙以外オール白黒ページにしたのも「とにかくコストを安く抑えて売価を下げる=番組表だけで元を取れる=特集の自由度が担保される」という意図があったのだと思う。
問題は、2010年代に入ってそのサイレントマジョリティの数がどう推移したか、ということである。直近の番組表ならテレビで見ることができる。ネットで番組表を見ることもできる。雑誌の番組表を必要としない人は明らかに増えている。それでも、大画面のテレビじゃないと番組表は見づらいし、雑誌の番組表はパラパラと一覧できる便利さもあるし、番組表を必要としている人も一定数はいるはずだった。しかし、その「一定数」というのが、どのくらいなのかがよく分からない。
(アンケートをしたとしても、そんなの送る人は「思い入れ」がある人なので、「愛はないけど買ってる」タイプの実像は見えない)
だから番組表をカットして月刊誌としてリニューアルすると聞いたときには、「本当にそれでいいのか?」と思いつつも、「でもそれも一つの判断だよな」と受け入れはした。番組表を外すことで「全国誌」になるというメリットもあったし。
そう、ブロスは番組表を外してリニューアルするまで、「全国誌」ではなかった。番組表が付いているということは、つまり「その地域の番組表」を載せるわけで、番組表は地区ごとに刷り分けられていた。具体的に言うと、北海道版・関東版・中部版・関西版・九州(というか福岡都市圏)版の5地区(昔はもっとあったらしい)。それ以外の地域では大型書店でもない限り、販売されていなかった。東北とか、北陸とか、中国・四国とか。
番組表を外すと「地域しばり」がなくなるので、全国で取り扱いが可能になる。で、番組表をカットした分、記事ページを増やす。心配ではあるが、「アリはアリだな」とも思っていた。
しかし。
「特集や連載に関係なく、番組表目当てで買ってくれる人」がいなくなるということは、売れ行きは全面的に「特集や連載」によって左右されることになった。連載は基本的に同じ顔ぶれなので、必然、特集がカギを握る比率が高くなる。その結果、「絶対に売れるものを」という傾向が明らかに強まったように見えた。もちろんそれぞれの人気者のファンは買い求めるだろう。でも、今までずっと買ってくれていた人の居場所は?
最後の1年、心配していたのは「行き来はあるのか」ということだった。
特集目当てで買った人がついでにコラムを読む。コラム目当てで買った人がついでに特集を読む。そういう往来は生まれているか。やはりこれも定量的には計れないのだけど、エゴサーチの感触ではあまり生まれていないように見えた。「それぞれを目当てにした人が買ってくれれば、売り上げは伸びる」という考え方もあるだろうが、そういう「分断」は、はたして雑誌にとって幸せな状況だろうか。
そして現実には定期刊行が終了した。
何度も言うけど、番組表を外すこと自体は一つの判断だと思うし、その結果がどうであれ「やってみないと分からない」という部分は大きかったから、そこはあれこれ言うつもりはない。ただ、そのことで方針がガラリと変わる(変わらざるをえなかった)という点まで考え合わせると、やっぱ外さないほうがよかったんじゃないかなー、と思う。
雑誌としてのテレビブロスは、やっぱり「テレビ」に支えられていた。それも、かなりしっかり目に。というのが今の時点での自分の結論です。
定期刊行が終わって、雑誌時代はあれよあれよという間に過去のものになりつつあるが、センチメンタル以外の部分でちゃんと考えておく必要があると思い、書きました。
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