本当に賢い人は、簡単な言葉を使う

今のゼミに入ることを決めた理由は、三つあります。

第一に、公務員になる人が多いからです。わたしは大学一年の時には公務員を目指すことをぼんやり決めていたので、先輩からアドバイスをもらいやすい環境を選びました。

第二に、同じ高校の先輩がいたからです。わたしの通っている大学はそれなりに規模が大きいのですが、同じ学部の同級生に、わたしの母校出身の人がいませんでした。だから、ゼミの説明会に行った時、わたしの母校出身の先輩がいたことに、とても安心したのです。新しい環境に飛び込む時に、何かしら自分と共通点がある人がいると、皆さんも少し、ほっとするでしょう?

第三に───これについて今日お話をしたいのですが───ゼミの先生の話し方が、大変明瞭だったからです。わたしは政治・行政系のゼミに所属しているのですが、実は高校生まで、政治をしっかりと学んできていませんでした。というのも、高校の時の政治経済の先生がアダム・スミス推しで、ひたすら経済理論について学んでいたからです。そのようなわたしでも理解できるような言葉を使って、政治や行政について説明してくださる先生に、大変感銘を受けました。それで、今のゼミに入ったのです。

わたしの考える本当に賢い人は、簡単な言葉を使う人です。

前提として、賢い人には知識があります。何かものを語る時には、ものを深く知らなければいけないからです。ものを調べて知って行くうちに、それが知識として身体に染み込んでいきます。こうして、賢い人は知識を蓄えていくのです。

この、「知識をつける」という行為自体は、誰でもできることです。専門知識をつけた人間は、いわゆる「オタク」と言われています。わたしたちの身の回りに、何かしらのオタクはたくさんいますよね。鉄道オタク、アイドルオタク、コスメオタク、洋楽オタク、、、。学問の領域に限らなければ、ほとんどの人は、何かしらの深い知識を持っているのです。

ところが、その深い知識を誰かに説明するとき、上手に説明ができる人は少ないように感じます。それは当然のことだと思います。ものを学べば学ぶほど、一般的には使用されない専門用語を知るからです。なぜ専門用語があるのかというと、一般にある語彙ではパッと表せないからでしょう。ここが厄介なのです。ものを説明するのに専門用語を使わなくてはいけないけれど、一般人はそれを理解できない、という問題が生じてしまうのです。

賢い人は、その問題をわかっています。自分が理解している言葉を、一般人はスッと理解できないということを。だから、簡単な言葉を使って、難しい言葉の言い換えを行うのです。

しかし、この言い換えは容易ではありません。先程述べたように、一般にある語彙で表せないものを表す役割を果たすのが、専門用語だからです。

したがって、言い換えができるようになる───すなわち、人に説明ができるようになるには、ものをさらに深く理解する必要があります。専門知識を蓄えるだけでは足りないのです。言い換えをする、ということは、一般的に使用される言葉を使いこなせていなければなりません。自分の専門分野の用語を覚え、一般的な語彙を十分に備え、そして専門用語に一般的な言葉を当てはめていく、この作業が求められるのです。この作業を当たり前のようにできる人こそ、賢い人だと思います。

説明とは、自分の持っている知識のお披露目会ではありません。ものを相手に理解してもらうことが説明なのです。だから、相手にわかってもらえるような言葉選びをしなければならないのです。この言葉選びが賢さの表れであり、思いやりのかたちではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?