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タバコが生んだ2回目の遭遇

次の日。

いつものように7:00に起きて、

学校へ母親のふりをして欠席の電話。

・・・本当に私のことなんて気にならないんだな。

もうかれこれ2週間以上休んでるのに、「大丈夫か?」の連絡もしてこない教師だったんだ。

誰も私のことなんて気にかけてない。

もう欠席の連絡だってしなくても気づかれないんじゃないか。

・・・どこで間違えたんだろう。こんなはずじゃなかったのに。


「おはよう。朝ごはんは?パン?ごはん?」

母がいつものように聞く。

「いらない。お腹すいてないから。もう行くね。」

「あまり寄り道しないで帰ってきなさいよ。今日はお姉ちゃんも久々に帰ってくるって。」

・・・あぁ、そうか。姉がいたんだ、私。

姉は私よりも10歳上で、実家を出て婚約者と暮らしていた。

姉というより親戚に近い感覚。

姉妹で恋愛相談したり、悩み事話したり、買い物したり…

そんなの私たちには無縁だった。


「わかったよ。なるべく早く帰る。」

母のことは大好き。

だからこそ心配かけたくないし、自分を偽っていた。

きっと私がいじめられて、学校へ行っていないなんて知ったら、

それこそ立ち直れないかもしれない。

姉を有名私立大学に行かせ、私にも期待している。

それもなんか、重かったのかもしれない。


向かったのはいつものマンションの地下駐車場。

・・・まさか、ね。


少しまた昨日の男性に会えるかも?もう少し話してみたいかも。

そう思っていた。


今日はお酒はやめておこう。

炭酸飲料を買って、タバコを吸う。


・・・来ない。

そうか、友達の家だって言ってたもんね。

毎日来るわけないか。


そして私が向かったのが、中学生まで通っていたキックボクシングジム。

「知ってる人いるかな」

そんな気持ちでジムを覗いた。


「おお!れいちゃん!」

そう声をかけてきたのは、私を担当してくれたトレーナーさん。

「宮田さん!お久しぶりです!」

「元気だった?あれ、学校は?」

「今日はテスト前で午前授業なんです。」

「そうかー。勉強頑張ってるか?それでジム辞めたんだもんな。もったいない」

「元々プロになるつもりはありませんでしたから。」

「そうか。あ!これから昼なんだよ。どう?一緒に。」

「はい!ぜひ。私も朝ごはんも食べてないのでお腹ペコペコ!」

「よ〜し!じゃあ入学祝いでご馳走してやる!」

「やった!ありがとうございます〜!!」


向かったのはジムから歩いて5分程度の飲食店。

宮田さんと、他にプロ志望のジム生2人。


「いや〜、れいちゃんがもう高校生だもんな、俺も年取るわけだ!」

「れいちゃんってそんな小さい頃からジムに通ってたの?」とジム生の1人が聞く。

「無駄に長かったかもです。小学2年生からだから、10年弱とか。」

「れいちゃんは、大会でも毎回トップ成績で優勝したこともあるんだぜ。お前らも肉食って頑張れよ!!」

「「はい!!」」


それから、ジム生2人と宮田さんの熱い格闘技論争が始まり、

ここにも私の居場所はないのかな・・なんて被害妄想。

・・・あータバコ吸いたい。


「宮田さん、すみません。ちょっと母から連絡があって、折り返してきます」

「おう!」


確か・・・入口の外に灰皿があったはず・・・

あった!!


宮田さんたちに見えないように、

壁に隠れるようにタバコに火をつける。

・・・はぁー落ち着く。


すると、店のドアが空き、私の方にドアが当たった。

「すみません!」

「あっ、いえ、こちらこそ。」


・・・・・!?


「「あっ・・・」」


昨日の男性だ。


「そんな堂々とタバコ吸っていいの?笑」

「何してるんですか」

「食事してたんだよ。笑 友達はみんな非喫煙者だからさ。一服しにきた」

「そうですか。家この辺なんですか?」

「いや、家というか…、行動範囲?って感じ。君は?」

「私は近くないです。同じく行動範囲って感じです。」

「シラフだと、ちゃんと敬語使えるんじゃん。笑」

「すみません。昨日敬語じゃなかったでしたっけ?」

「全然。まぁいいけど。また会うかもね。笑」

「タバコに火をつけるときは、周り見渡さないと。笑」

「笑ったね。」

「笑ってません、愛想笑い。」

「それも笑ってるうちに入るの。次もし会ったら名前教えて」

「・・・その日の私次第かな。」

「俺は、あきと。」

「・・そう。じゃあ、もう戻るね。」

「またね」


ドアに手をかけて、ハッと振り返る。


「私、れい!れいだから。君って呼ばないで」


驚いた顔をしてすぐに、笑って

「わかった。れいちゃん。」


なんで名前言ったんだろう。わからない。

私、どうしちゃったの。

ソワソワしながら席に戻る。


時間差で彼が店に戻ってきた。

目で追ってしまう。


男性4人が座る席に戻り、

私がどこにいるか気にする様子もなく、帰り仕度をしていた。


去っていく彼を気づかれないように目で追う。


・・・バンドマン?なのか・・・

彼は肩にギターケースを背負っていて、

私は、いじめの発端となった軽音部の彼と重ねた。


やめておこう。また傷つく。

名前なんて言わなきゃよかった・・・


でもなんだろう。彼にまた会いたい。

次こそはちゃんと話したい。

あきとさん・・・。

漢字はどう書くんだろう・・・

バンドやってるのかな。

何歳なんだろう・・・


「おい!れいちゃん!帰るぞ!」

「あっ、はい!ごちそうさまです!!」


彼の笑顔がまた見たい。

名前を呼んでほしい。

もっと彼を知りたい。


私はもうこの時点で、彼に惹かれていて、

それが人生で一番の傷を負うことになるなんて、

十数年忘れられないことになるなんて思ってもみなかった。

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