見出し画像

Competing values framework 相反する価値観のフレームワーク

Organizational Behaviorの授業は終わってしまったのですが、引き続きわたしは興味のある企業カルチャーや比較文化論を独学で勉強しています。具体的には本や論文を読みながら、疑問に思ったところや興味のあるところを深堀しています。

なんとなく修士論文は企業カルチャー、なかでも異文化が交じり合ったときの変化や、それがどのように作用するとうまくいくのかにしたいなと思っているのも理由の一つです。

どういうカルチャー同士が相性がいいかとか、ジョイントベンチャーは一種の結婚ですから、直感的にたぶんあると思っています。

海外で成功するにはパートナー選びが大事だと言いながら、よいパートナーとはどういうパートナーを指すのかの定義があいまいな気がしているので、少しはっきりさせたいんですよね。
過去の経験から、結局誰がやるかで決まりますという結論は見えているのですが、それでも何か法則的なものがあるんじゃないかと期待しています。

というわけで、今のうちに気になった書籍や論文を読んでます。

授業では数秒で終わったのですが、これはたぶんおもしろいやつだと直感的に思ったのが2つあり、一つが表題にもある「Competing Values Framework」もう一つが「Hofstede's Six Dimensions of National Culture」です。


Competing Values Frameworkの説明

著者は成功している企業を大量に研究し、成功している企業が成功している要因は、マイケル・ポーターが言っているような絶妙なポジショニングを確立しているからではなく、企業文化を確立しているところと結論付けました。
読者をひきつけるため、有名な競争理論を持ち出して、「競争優位になるポジションを取れるようなラッキーな事態は起こりえない、優位なポジションになくたって成功している会社はたくさんある」と言ってから自分の理論を展開していくやり方です。

まとめると、どの企業文化が成功するかの正解はない、企業文化は2つの対立軸で分類できると述べています。対立軸をCompetingと言っているんですね。

1つめの対立軸は、内向き志向と外向き志向
2つめの対立軸は、安定志向と柔軟志向

この2つを組み合わせると下のような4つのマスが出来上がります。

1.創造的な文化(Adhocracy文化)外向き+柔軟
臨機応変という訳になると思います。
イノベーション(変革)、変化、ルール破り、といった特徴を持つ文化です。

2.協力的な文化(CLAN文化)内向き+柔軟

家族主義という訳になると思います。CLANというのは氏族とか一族といった感じの言葉です。
チーム、仲間同士の約束、知や力の結集、長く続く関係性、言い合いを恐れない。

3.支配文化(Hierarchy文化)内向き+安定
日々の改善、細かいエラーをつぶしていく、ルーティン、ディテールへのこだわり、慎重な意思決定、保守的

4.競争文化(Market文化)外向き+安定
スピード、勝利へのこだわり、目標の達成、外部リソースの積極的な活用

理論では、会社が生まれたてのときは1のAdhocracy、成長して大きくなるに従い、2のCLAN、3のHierarcyと進み、最後は4のMarket文化になると言われています。
わたしの感覚は1から3までの流れは同意しますが、4は3の次ではなく、成功している会社においてはステージに関係なく常に強く意識されていると思います。

補足:

日本的な対立軸でいえば、平家・海軍・国際派(External+Flexibility=Adhocracy文化)源氏・陸軍・国内派(Internal+stability=Hierarcy文化)です。前者は改革派で少数派、後者は保守派で多数派というのが日本の歴史です。司馬遼太郎の受け売りですが、気持ちいいほどぴたっとはまりますよね。

日本の場合、変革が必要になると、海外の力を使う傾向があります。Externalの要素を高めることで、stability(安定志向)に対抗しようとします。真っ直ぐではなく斜めに力をかけることで、反発を和らげようとしているのではないでしょうか。
古くは蘇我氏が仏教を使って改革に乗り出したパターン、明治維新で海外の知見を使って変革したパターン、あるいは敗戦後にアメリカの意向で政体や思想が変化したのもこのパターンです。

何か変えたいとき、今でも日本人はグローバルスタンダードがどうとか、このままでは乗り遅れるとか、海外を利用する傾向が強いですね。
あなたは間違えてますというと反発が大きいので、他の人の意見ではあなたは間違えているらしいというロジックにして対立を和らげようとするわけです。関西弁でいう「知らんけど」をつける感じですね。

日本のすごいところは、これも司馬遼太郎の受け売りですが、大衆が平気で裏切る(宗旨替えを行う)ところです。要はポリシーがないんですね。
本来保守的なはずなのに、変わるときは平気でがらっと変わってしまうのが日本人という見立てです。
狭い村社会の文化なので、各自がポリシーを強く持っていては常に対立してしまい社会がぎくしゃくしてしまうので、ポリシーを持たず決定的な対立をしないようになったのだろうというのが司馬史観です。

そういう意味ではインドネシアのジャワ、スンダの文化はとても日本的です。日本以上に対立を避けようとする文化に感じます。

本の内容に移ります。

この本のおもしろいところは、実用的であろうとしているところです。具体的には、OCAI(Organizational Culture Assessment Instrument)という手法を使って、自分の組織がどの文化に属しているのかを確認できるようにしています。

また本の後半では、いかにカルチャーを変えることができるか、具体的なステップを示して各社、各自が取り組めるようにしています。

ただ、変えるのは相当難しいと思います。著者も言っているように、企業カルチャーに正解はなく、どんなカルチャーであろうと成功企業は出ています。要は、競争環境や企業の成り立ちや構成によって、ぴったりと合うカルチャーがあって、うまく回しているわけです。
勝手にそうなったに近い世界と想像しており、あるところだけ変えようにも、いろいろな要素が複合的に有機的につながって一つのカルチャーになっているので、変わらないか、意図しない変化をもたらし失敗するような気がします。
人は成功体験を引きずるものです。クリステンセン教授のイノベーションのジレンマに書いてある通りで、変化への抵抗も激しいです。

独断と偏見で過去の会社のカルチャーを分析してみる。

過去自分が所属した日本アジア投資(ベンチャーキャピタル)、シャープ(家電)、三菱自動車(自動車)のそれぞれを点数化し分類してみました。
ここでは点数はオープンにしませんが、想像していたのと近い結果になりました。若干ちょっと違うんじゃないかと思う分類方法もあり、日本企業とアメリカ企業の違いかもしれません。

日本アジア投資の場合

ベンチャーキャピタルですし、できて間もない会社だったので、完全に創造的文化(アドホックカルチャー)が強かったです。まあわかりやすいですね。
ただ、複雑なのは、CLAN文化でもありMarket文化でもあったところです。
CLANなところは、日本のVCの父ともいえる今原さんが、新卒採用を開始した91年から一気に若者が増えだし、わたしが入社した95年は組織の3/4が20代の若者のような状態になっていました。
20代社員中心で、かつ急成長しているためポジションもどんどんできて、リーダーや管理職もみな若く、ノリが大学のサークルのようでした。仕事も遊びもみんな一緒、仕事と遊びの区別がほとんどついていないような雰囲気でした。
新しい業態の店ができたらみんなで見に行ってみるとか、合コン相手を探してくるのも営業力を鍛える一環だとかですね。

一方で、ベンチャーキャピタルの仕事は残酷なほど結果が見えやすい世界です。世間の注目を浴びているベンチャーにがんがん投資を進めている先輩、IPOがどんどん出ている先輩がいる一方、よい経営者を口説けずなかなか投資が進まない方々もいらっしゃいます。運もありますしね。
さらに、VCの仕事は年齢があまり関係ないところも特徴です。入社1年目から一人で会社回りをしますし、やっている仕事の内容は入社年次と関係なく同じです。そうなるとどうなるかというと、先輩だろうとできないやつはできないと言い放つ、結果主義のカルチャーになりがちということです。

シャープの場合

わたしは奥田社長、高橋社長、鴻海に買収された後は戴(たい)社長の3名にわたり、変化の様子を間近で体験することができました。
あくまでもわたしの個人的な感覚で、高橋さんが意識していたかは別にして、CLAN文化を強化しようとしたと感じました。官僚的、分断的なカルチャーを、家族的、組織の枠を取っ払ってみんなで協力して困難を乗り越えようとされていました。たこつぼ組織/文化の弊害を無くそうと言っていました。

鴻海がやってくるとまたガラッと変わります。わたしの感覚ではCLANではなくMarket Cultureを強化しようとしたように感じました。シャープ社員はまるで金持ちの子供のようだと言われたのをよく覚えています。

具体的にはよく狼軍団になれとおっしゃっていました。わたしも戴さんに怒られ、狼性を示す標語を朗読させられたことがあります。たぶん3回は朗読させられたんじゃないかな。
一頭としての力は虎やライオンには及ばないものの、集団で常に相手の隙を伺いつつスピードとチームワークで勝負します。家と仕事を分けるなともよく仰っていました。常に100%仕事のことを考えていろということです。

たこつぼ文化は跡形もなくブルドーザーでならされました。

三菱自動車の場合

三菱グループというのは、基本的に保守本流なので、支配文化の要素が強いです。管理部門が強く、ルールに従う文化です。儲かればいいんだとか、勝てばいいんだという覇道ではなく、三綱領*に見られるような王道を歩めといったカルチャーです。
それでも不正が起きるので、不正が起きる仕組みは複雑ですね。

グループのなかでも三菱自動車は特異な歴史をたどっており、ダイムラーの傘下になったり、三菱3社(重工、銀行、商事)に支えられていた時期があったり、今は日産資本が入ったり紆余曲折を経ています。
それだけ、文化が入り乱れ変化するはずなのですが、わたしの目から見ると不思議なほど動じず影響をうけない文化に見えました。

もちろん全く影響を受けないわけではなく、粛々と変化に応じているのですが、表面的なもので心の奥底までは影響されていない感じです。
これはわたしの受けた感覚で、みんながそのように言ったり、感じたりしているわけではありません。6年間所属しただけで、ずっと本社にいて現場経験なしですから、誤認識の可能性はかなりあります。
でも、個人的には非常に興味深かったです。

字数がかさんでしまったので、もう一つのテーマは別の記事で書かせていただきます。「Hofstede's Five Dimension of nation Culture
最後に書籍をご紹介します。競合価値観フレーム技法と訳していますね。
日本では2009年に和訳が出ているようですが、わたしは全く知りませんでした。あまり売れなかったみたいですね。

わたしは英語版で読みました。読みやすい文体でした。様々な論文に引用されている有名な論文というか本です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?