キムタクのYoutube「木村さ〜ん」京都撮影所回の「いただく」を考察してみた
映画『グランメゾン・パリ』公開が待ち遠しいこの冬。
突然ですが、木村拓哉さんのYou Tube『木村さ〜ん』、ご覧になっていますか?
TV番組や映画とは違う普段着の"キムタク"もまた素敵ですよね。
特に「木村拓哉の京都撮影所ツアー」編は、京都暮らしの私には、京都撮影所というだけで勝手に身近に感じてしまう勘違いなおまけまでついてくる神回。
この回の言葉に注目してみました。”キュン”ポイントが3つあります。
1.木村拓哉さんと周囲のフランクな関係
なかなか簡単に撮影できる場所ではないらしい京都撮影所。
まずは、スタッフさんと特別な場所の紹介していく木村拓哉さん。
所作指導のスタッフさん、美術のスタッフさんとの会話は丁寧語。
フランクな感じで、いつも通りの木村さん。スタッフさんたち、木村さんのこと大好きなんだろうなあ。木村さんも、周りの人たちを信頼している感じがとってもいいなあ……。
にこやかな会話が続く中、皆さんさぞ仕事モードでは真剣勝負なのだろうという厳かな気配も垣間見られます。撮影所という場は、プロフェッショナル同士が磨きあう一種の道場的な場でもあるとみました。
2.食に対する敬虔さと視聴者へのおもてなし
スタッフさんの紹介を終えた木村さんは食堂へ。(開始後16分29秒頃です)
ここで「肉そば」(どんな肉そば? ネタバレになってはいけないので、詳しくは動画をご覧ください)にかける特別な粒柚子胡椒を手にし、「こっれ、やばい」と言いつつ、出来上がりを待つ木村さん。
この食堂で起きた(起き続けている)「すっげーうれしい」ことについてのトークが続きます。(これについても、詳しくは動画をご覧ください)
出来上がりを待ちながら、肉そばの解説です。
ここで使われている「お〇〇」は、「お酒」「お醤油」などと同じく、美化語ですね。男性では「そば、だし、ねぎ、肉」と「お」を付けない人も多いでしょう。もちろん、それでもOKです。
美化語はその人の慣習に左右されるので、厳密な決まりはありません。
聴きながら「お〜、そうきたか」と思いました。なんだか、「らしい」気がしたのですね。擬音も微妙に違うのです。随所に感じられる粋な計らい、そしてサービス精神。自然と、なのでしょうね。
続きます。さあ、肉そばができました。
お気づきでしょうか。
全体的には丁寧語なのですが、「食べる」ことについてだけは「食べる」でも「食う」でもなく、「頂く(いただく)」が使われています。
ここでの「頂く(いただく)」は、丁重語です。他に、謙譲語Ⅰの用法もありますが、長くなるので、ここでは該当する意味だけを紹介しましょう。
かつては、謙譲語としてのみ使われていた「いただく」ですが、近年は丁重語としての用法も広まってきました。ここで丁重語を使うのもまた、”キムタクらしさ”が見てとれます。
以前「トークィーンズ」に出演したときの木村さん曰く”プライベートではあまり台所に立たない”そうで、これは意外。過去の料理番組やTVドラマ「グランメゾン東京」でのシェフ然とした手さばきでしたよね。ミシュランの星にふさわしい料理、シェフ、道具、厨房……その現場が高いプロ意識の結晶であることは想像に難くない。"木村シェフ"も敬意と緊張感を持って大切な食材と対峙したに違いないと思うのです。
そんな役者としての背景からか、あるいは生来の気質や体験も手伝ってか……いずれにせよ、ここでの「いただく」では木村拓哉さんの食に対する敬虔な思いを感じさせられます。もちろん、視聴者へのサービス精神も。
3.言葉にも”キムタクコーデ”
私は普段から、「敬語は正しさ以上に”ほどのよさ”」が大事だと考えています。
謙譲語を尊敬語と間違えたりはさすがにどうかと思いますが、相手に嫌な気持ちを与えなければ、あとはその場にあった「ほどよい敬語」が使えればいいな、と思うわけです。
言葉のコーディネイトは、身だしなみに似ています。
その場にあった使い方や、どんな風に見せたいかで使い分けたりしてもいいのではないでしょうか。
つまり、ハイソな感じやドレスダウンした感じなど、ファッションと同じように使い分けることができれば楽しい。むしろ、ずっと敬語、ずっとタメ口という人のほうが珍しいですからね。
キムタクは、日頃からおしゃれですが、この『木村さ〜ん』京都撮影所ツアーでは、言葉に関してもオリジナルなセンスを感じさせます。
スタッフと気軽に話す感じや、食堂での説明で「すっげえうれしい」「マジうまいよ」のもちょっとやんちゃで、それもまた良き、ですね。ファンにとってはバックヤードを一緒に歩いているようで何とも楽しい。
さらに、食堂の場面では、美化語の「お」や丁重語の「いただく」が出てきます。普段着とちょいよそゆきのバランスが絶妙です。
全体的には丁寧語でトークが進む中、視聴者としてはここでおもてなしの気持ちを感じて、うれしくなります。丁重語は、相手(視聴者)に対する改まった気持ちを表現するものだからです。
Youtubeをはじめとしたソーシャルメディアでは、出演者もいれば、視聴者もいます。どちらを向いて、どんな言葉で……と考えるだけでも頭がこんがらがってきそうですが、さすがですね。
まとめ
ジャケットのインにGジャンを着るとか、エレガントなスカートに革ジャンを合わせるとか。ファッションでもギャップを楽しむコーディネイトがありますよね。
今回は、『木村さ〜ん』の京都撮影所編のみでの考察ですが、木村拓哉さんはもしかしたら言葉においてもコーディネイトセンスが抜群なのかも。
……なんて書くと、なんだ、ただのファンじゃないかと言われてしまいそうですが………はい、確かにその通りです。
”キムタク"と同じ時代に生きている幸運を日々感じているひとりです。
ただ、これだけは言いたい。敬語というと、マナー的な側面ばかりが強調されがちです。ともすれば、面倒に感じたり、難しく感じたりするかもしれません。
でも、日本語という大きなくくりのなかでの一つと考えてみるのはいかがでしょう。表現のツールとして、もっと使い方を工夫したり楽しんだりしてもいいんじゃないかな。この動画を見つつ、そんなことを考えたのでした。
たかが敬語、されど敬語。
あなたはどんな風に、言葉コーデしていますか。気軽に教えてくださいね。
"今日の注目記事"に選ばれました。ありがとうございます。
『その敬語、盛りすぎです!』で「いただく」が出てくるのは、112ページです。
「ご夕食はいただきましたか」「ご夕食はいただかれましたか」というフレーズについて執筆しています。↓