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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第40話 未来のつくりかた

前回のお話

MIYABE.COの経営破綻で今回の大阪万博に向けてパビリオンは頓挫。

途中仕掛かりで組んでいた案件も全てなきものとなってしまった。

これまでにかけた予算などもビズルートの持ち出しとなってしまう。


誰にも予測できなかったこの破綻についてビズルート側では責任追求よりも他の案件でのリカバリーをどうすべきかの議論が中心となった。


既存事業の積み上げ。すぐにでも利益貢献できる事業にリソースを集約しなければならない。


既存事業は丸山が牽引することで乗り切る算段を経営陣はつけた。


この局面を乗り切るために過去の手腕と若さとバイタリティが評価された。


一方、そんな中、吉田は新規事業チームに異動となった。


新規事業


捉え方によっては未来志向のセクションだが、既存の事業を行う力がないというレッテルを貼られてしまったようにも受け取られかねない。

慎吾は丸山の側でこの難局を乗り切るという船に乗せてほしいと嘆願をしに行った。


「吉田くん。これは私から上層部に掛け合って推薦して実現した人事だ。


吉田くん。


未来を作れ。


ビズルートの今は私が何とかします。

でもこの一時凌ぎはあくまで一時凌ぎなのです。

次を考えて手を打つ。


私は、吉田くんにこそできると考え、上申しました。

頼みます。


期待に応えてください。


ビズルートの未来を


あなたに


託します。





慎吾の胸に熱い何かが灯った。




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丸山の言葉を絶えず心に刻み、日本全国を東奔西走した。

あらゆる可能性も逃さないように

必死で情報収集と現地調査を行いながら新規ビジネスを練っていった。

しかし時間との勝負であることも大きなプレッシャーとなった。


MIYABE.COが破綻してから、宮部会長のことが耳に入ってきた。

病気になられて前線での仕事からは身を引かれているようだ。

事業再生に向けて再始動を始めたものの元に戻るには3年はかかるだろうと言われている。


事業を営むというのは継続していくことの難しさといかに向き合うかということを痛感する。


企業に就職して生活をすることは人生で生きていく上で必要な糧を受け取ることであり、企業側は雇用して社員の人生を預かることと同義である。


経営が破綻してしまうことで人生の歯車が狂うことを身近で垣間見た事象なだけに怖さと切なさがビジネスに表裏していることが染み入っていった。


今、自分が行う新規事業はビズルート社の100年後を担うものになり得るだろうか。

目先の儲かることだけを新規事業として取り組もうとしていないだろうか?

そもそも自分自身がビズルートの社員として心血を注いでやりたいことだろうか?


会社軸


自分軸


現在軸


未来軸


これらを俯瞰してみながら思考を巡らせる。

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会社と自分がクロスして未来志向の新規事業が、個人的に持続可能であり注力ができつつ時間軸がなるべく長期的に視点をもったものにできないか。


とはいえ、一人で考え続けてもいい答えは出てこない。


いいと思ったものはすでにどこかが着手していたりするものばかり。


思いつくものはどこかで見たもの、どこかで聞いたもの。


答えや出口がないように思えてきた。



ふと、またMIYABE.COのことが頭をよぎった。


『宮部さんは最初になぜ事業を起こそうと思ったのだろうか。

成功する自信はどこにあったのだろうか。

怖くなかったのだろうか。』


慎吾は同時にもう一人の経営者が頭に浮かんだ。


『藤井さんのお母様も経営者だったな。。。』


気がつくと慎吾は電車に乗り、老人ホームに向かっていた。


答えがそこにあるわけでないのはわかっているが

何か聞いておく必要があるように感じた。


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老人ホームに入って、藤井の母を訪ねた。

大きな窓から注がれる陽の光は以前と変わらず暖かな場所を作り出していた。


「はるさんなら中庭にお見えですよ。ちょうど先ほど来客の方がお見えになりましたからご一緒のはずですが・・・。」


受付の方の案内を聞き、お礼を述べて中庭へと足を踏み入れた瞬間、慎吾は驚きを隠せなかった。


ベンチに腰掛ける藤井はるの隣に座っていたのは、大柄で体躯のいい老人。

着ているものも品のあるパリッとしたスーツを着こなしている白髪の紳士。



「大東光喜」



ビズルート社の会長、大東光喜であった。



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「おや。あんた、また来たのかい。元気だったかい?」

はるさんは慎吾に気づいて声をかけてきた。


「どうも。ご無沙汰しております。」


「本当だよ。ちっとも顔出さないで。

あ〜。

光ちゃん、この人、この前話してた人よ。」


慎吾は大東に正対し緊張しながらもなるべく平静を装った。

「ビズルート社 新規事業開発部の吉田慎吾です。」


大東は見定めるように黙ったまま眺めた。

ゆっくりと話し始める。


威圧感はないもののしっかりと張った声でありながら、それでいて親しみある声だ。


「吉田くん。何をしにここにきたんじゃ。」


慎吾は失礼しますと言ってその場にあぐらをかいて座り込み二人を見上げるようにして話し始めた。


その心を開くかのような態度に大東は口元が緩んだ。


「今、新規事業を手がけておりますが、どういったビジネスがビズルート社として未来に向けて取りうるべきことなのかがわからず・・・。

経営者として歩んでこられた藤井さんにお話を伺えればと思った次第です。

お話のところ、お邪魔して本当にすみません。」


「ほんまじゃ。

邪魔じゃのう。


あたしはあんたに話すことなんかないよ。


仕事なんてのはね。


あたしはただただ必死に死に物狂いにやっただけよ。

あんたらがやっているような何だか難しいことなんかやっとらんのよ。


お客様が喜んでくれることを

ただただ、

喜んでくれればそれでええと思って一生懸命やっただけよ。


何をやればいいとか

どうすればうまくいくとかなんか何もないんよ。」


はるの言葉がズシンと刺さった。



ただただ一生懸命に


ただただお客様の喜ぶ顔を見るために



「吉田くん。

あんたまだ若い。

うまくいくかどうかは、うまくいくまでやるかどうかじゃ

始めないことには、うまくいくもいかんもないじゃろ。

だったらやってみないかん。


大東の言葉は創業者としてビズルートを創り上げてきた男の嘘のない言葉だった。


「わしは、はるさんと小学校の時の同級でな。

そん時からのー、まあ、腐れ縁じゃ。


今でもこうして会うておるが、まあ、はるさんも大変な人生じゃったから、

わしはわしができることで手伝ってきた、まあー、戦友みたいなもんじゃ。」


大東は遠い目をしながら話す時には慎吾の目に飛び込んでくるような感覚で近くで話した。


わしは、ビズルートを大きくしようなんぞは思ってもおらんかった。

一回も思わんかったんじゃ。

一回も。

せやけど、気がついたら大きくなっとった


不思議なもんじゃな。

でも今、君らは頑張ってさらにビズルートを大きくしようと頑張っとる。

それはそれで大事なことじゃ。

でも忘れちゃならんこともある。


誰かが喜んでくれるようなことをせないかん。


それだけは忘れんとやってくださいよ。


大東の目は今にも飛び出さんとばかりに開き、慎吾を突き刺さすように見てくる。


「はい!ありがとうございました!」




晴れ晴れ



とはこういう時に使う言葉であるように思えた。

自社の会長から直々に訓示をいただいたのだ。


慎吾のビジネス人生の中でも大きな出来事だった。



将来の成長性


そこに囚われすぎてはブレてしまう。



誰かのためになること

そして最後までやりぬく覚悟を持つこと



慎吾の中で少しずつ頭の中が整理されつつあった。


『答えはビズルート社の企業理念


「誰かのために」


この一言にあったんだ。』



何とでも解釈できる。

何をやってもいいように思える。

でもそんなに簡単なことではない。

具体的な方法は無数だが

まずは自分自身が本気で誰かのためにできることかどうかに向き合うこと。


不特定多数の誰か

特定の誰か


誰かの設定でも大きく変わってくる。


それを決めて会社をその方向に将来ドライブさせていく責任をどこまで取り切れるか。


押しつぶされそうなプレッシャー。


だからこそそれを楽しめるかどうか。



慎吾はまだ見ぬ未来の誰かのためのビジネスを模索することに

まずは全身全霊を注ぐことを誓って二人に別れを告げた。



大東は一言去り際に慎吾に声をかけた。



「楽しめよ。」



慎吾はその意味を本気で理解すべく新規事業の山を決めて登る覚悟をした。


その山は

「教育」

という山だった。

教育学部を出た慎吾の本当にやりたいこと。

今こそやるべき時だと信じて登ること。

それがビズルートで創り上げることに行き着いたのだった。


『楽しめよ。』


大東の言葉がリフレインする。




『楽しみます!』



それに返すように胸に広がった。

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