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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第29話 40代の意思決定

前回のお話

丸山にとって今回のプレゼンは、転職してから最初の案件となる。

気合が入るプレゼンであることは間違いなく、ビズルート社での成果を出さなければならない一里塚。


執行役員としてビズルート社へ転職したのはヘッドハントのメール。


40歳を過ぎて、丸山は考えていた。


『このまま、フロンティア・ワールドでトップまで登りつめることが本当にやりたいことなのだろうか。

今、自分の実力は外の世界でも通用するものだろうか。』


丸山は企業内での評価と外の世界の自分への評価に乖離がどれくらいあるのかを、転職サイトへのエントリーを行うことで客観的評価を絶えず測っていた。

メールが入るようになってきたのは部長になってから。

役職と実績は他の企業にも目に留まるのであろう。

様々な企業からオファーはあった。


スポーツ業界

医薬品業界

自動車業界

保険業界

外資系企業

などなど


今まで自分が歩んできた道とは異なり、さまざまな業界から問い合わせが来た。



そんな中、ビズルート社は熱烈であった。



すぐにアポイントを求めてきた。

条件もすぐに提示された。

それまでの年収の1.5倍、執行役員の役職と成功報酬。


タイミング



40代でチャレンジする選択



一歩踏み出した。



心残りは吉田をはじめとしたメンバーを育てることが志半ばであったこと。

持っているノウハウを全て伝えて部下の成長を目の当たりにし、会社のアウトプットの質と量が増えることで貢献できる。


これは丸山の部下育成の軸だが、最後にままならなかった。


転職条件=「すぐに」


スピード感が想定以上だったことに起因している。


何も伝えられず離れることになった。


新たな一歩を踏み出し、自らの未来を勝ち取るためにそれらを犠牲にして飲み込むことにした。



自分で決めて自分で歩む



転職をすることで

執行役員という役職に就くことで

それらを手に入れた。


自分のために



転職して1ヶ月経過した頃、

内藤は現実を目の当たりにした。


『執行役員であれ、一般社員であれ、

企業人であることは変わらず、

当たり前のように成果は求められるものであり、

その責任は確実に年収と役職に合わせて増大する。

その環境を楽しめなければ

ただただ辛いだけのものになりかねない。』



頭では理解していたこと。

それが環境変化により、

新たなミッションをこなすことで顕在化してくる。


『動機善なりや。私心なかりしか。』


京セラを創業された稲盛和夫氏がフィロソフィとして掲げた言葉。

丸山が尊敬してやまない経営者の一言をふと思い出す。


そもそもこの転職という行動には私心しかなかった。

しかし、その私心があったからこそ、一歩踏み出せた。

私心を満たしてこそ、さらにその外郭にある企業や社会に対して善なる事が成せると丸山は自答した。


今をやり切ること

過去のことを考えて後悔し過ぎず

未来のことを考えて怯え過ぎず

とにかく

今、ここに集中すること。


丸山が歩んできたビズルート社での数ヶ月は

さらに本人の思考を深め自立を促すことにつながる機会となっていた。


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「では、ビズルート社様。お入りください。」

入れ替わりで吉田たち、フロンティアワールド社のメンバーが会議室から出てくる。


思えば、道半ばで離れた元部下とここで会うのも因果なもの。

きっと、思うところはあるだろうが、

彼らに負けるわけにはいかない。


いや、

負けるはずがない。


負ける要素が最初からないのだから



丸山はすれ違う吉田に笑みを浮かべた。


「ご苦労様でした。また。」


会釈する吉田を視界のハジに捉えつつ会議室に向かった。


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今、ここに集中する


丸山の中で、

もうすでにこれからのプレゼンにおける

今、ここに集中する必要はなくなっていた。


丸山にとってのこの案件の

今、ここに集中する

ことはすでに過去のものであった。



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