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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第39話 瓦解

前回のお話

経営会議室の扉を開けて入ってきた遠藤に驚いたのは吉田だけではなかった。

神宮寺まどかもその一人だ。


遠藤は、神宮寺と吉田に軽く会釈すると持参した資料を事務局に渡した。

事務局員は受け取るとすぐさま各役員に資料を配布していく。


「遠藤と申します。

現在、財務部に所属しており、今回MIYABE.COのプロジェクトに参画しております。

また、当方のミッションとして、財務・プロジェクト推進のみならず裏ミッションにもコミットしてきました。

そこにお見えになる神宮寺まどかの諜報員として、別の言い方をすればスパイみたいなものですが、今回のプロジェクトに関して仔細にわたって報告しておりました。」


吉田が感じていた、石渡専務の動きが全てこちらの先手になる理由が理解できた。

私たちの動きを神宮寺にエスカレーションし、さらに神宮寺から石渡専務へ筒抜けになっていれば先回りされるのは当たり前だ。

遠藤は周囲の反応など意に介さず話し続けた。

「そしてもう一つのミッションも受けておりました。

それは全社的アクションとして、事業において不正・隠蔽などが行われていないかについて潜入調査を行うよう、宮本常務より直々に密命を受けておりました。」


遠藤は千石社長の視線を正面から受け止めた。

視線をそらさぬまま、まるで千石社長にだけ報告するかのように目を見つめたまま話した。

「お手元の資料をご覧ください。

これまで行われてきた石渡専務および神宮寺部長の指示による当方の対応事象を時系列でまとめたものです。」


今回のテンタントに関わる事の経緯などが漏れなく付記されていた。


「石渡さん。

言い逃れはできんよ。」


宮本常務が資料を読み上げるまもなく石渡専務に言葉を投げつけた。


会議室は沈黙を保った。

長い時間が経ったように思えるが実際には3分も経っていないだろう。

全ての視線は石渡専務に注がれていた。

その場でうなだれていながら、それでも何かしら反論の余地がないかを必死に考えているように受け取られる石渡専務の言葉を皆が待った。


沈黙を打ち破ったのは千石社長だった。


「石渡くん。

指示があるまで謹慎とします。

今すぐ、この会議室から出ていくように。」


太く、深い重厚感のある千石社長の声が静かに響き渡った。


会議室にいるメンバーは誰一人PCのキーボードを打たず、その光景を見つめていた。



石渡は席を立てずにいた。

今まで身を粉にしてビズルート社のために動いてきた自分の行動を全否定されたかのようなこの事態を受け入れられなかった。

次期社長と言われたこの石渡がこれくらいのことで失態するものであってはならない。

呆然としながらも公の場で開示されてしまったテンタントのことについて、今のこの会議状況では下手なことは口にできなかった。

石渡は黙ったまま肯定も否定もせず、ただただ黙ったままでいるしかなかった。


沈黙すること自体、周りからはこのことを認めているように映ることを石渡は理解できていなかった。


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その後、正式に出された辞令は以下の通りだった。


石渡幸久 専務・・・懲戒解雇

神宮寺まどか 部長・・・3ヶ月の謹慎及び降格・減俸

丸山雄大 執行役員・・・職務復帰

藤井剛 係長・・・職務復帰

吉本洋子・・・職務復帰


また、石渡専務が務めていた営業部門は宮本常務が兼務で見ることとなり、実質的な時期社長候補としての地位を固めた。


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銀座のBARにはいつものメンバーに加えて、丸山、藤井がたたずんでいた。


内藤、吉田のターキーは、シングルからダブルに変わっている。


佐々木の前には何も言わなくてもモスコミュールが出てくるようになっていた。

佐々木は自分にも注文しなくても出てくるモスコミュールに常連に認められたような嬉しさが漂った。


「丸山さん、藤井さん、お帰りなさい!!」

内藤はそこはかとなく嬉しい気持ちで溢れていた。


旧フロンティアメンバーがこうして集まれるのも久しぶりであり、ここまでの地道なアクションが報われたことに嬉しさが込み上げてきた。


「ただいま。

皆さん、ありがとうございました。」


丸山の声もハリがある。


「色々とご迷惑をおかけしました。」


藤井の控えめな口ぶりに、慎吾は藤井のお兄さんの面影をダブらせた。


『剛を頼みます。。。』


あの時の健氏の表情は一生忘れない。頼まれたことに応えられた達成感をターキーで流し込む。

喉の焼け具合がいつもより長く続くのが心地よかった。


「さあ、明日からはいよいよ本格的にMIYABEのプロジェクトをドライブさせなきゃね〜!!
吉田、あんたがしっかり3倍動きなさいよ!!」

佐々木のプッシュに慎吾の表情にはひさしぶりに笑顔が戻ってきた。


「任せてください!!」

慎吾の前には2杯目のターキーが差し出された。


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その日は深夜を回ってからタクシーでそれぞれが家路に着いた。

シャワーを浴びるのもそっちのけで久しぶりにぐっすりとベットで眠りにつけそうな感覚だ。

ネクタイを緩めて靴下を脱いだところまでしか記憶がなかったが翌朝目が覚めてテレビをつけた瞬間にぼやけた頭が覚醒した。



MIYABE.CO  経営破綻



慎吾は悪い夢でもみているのかと思い色々とチャンネルを切り替えた。

どの報道番組も一斉にMIYABE.COの経営破綻を流している。


スマホには丸山さんからメンバーに一斉メールが流れていた。



『9:00より緊急会議。』



慎吾を取り囲む環境は

さらに大きく蛇行し始めた。



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