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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第19話 チーム思考のSDGs

前回のあらすじ

各チームは週末を使い、それぞれがエビデンスを集めながらロジックを補強してより説得力がありかつ、実現可能性の高いものへと昇華させていく。

ただのアイデアでは結局実行力が伴いわない。自ずと外の企業との連携を模索することがスピードと精度において確実に成果が出る。

従ってそれぞれのチームのポイントは

・どこと組むのか?

に焦点が当てられていく。

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慎吾はリカレント教育に着目をしていた。生涯学習ができる環境を提供することは今後の社会形成を行う上でテクノロジーの進展に伴い、より簡単により安価に提供できるものであると考えていた。

慎吾のリカレントへ教育への念いは祖父母に起因する。
すでに他界してしまった大正生まれの祖父母は幼少期に十分な教育を受けられなかったことをとても悔やんでいた。
「もう少し学があればなぁ。」
と話す祖父を幼ながらに聞いたことを鮮明に覚えている。

その後の人生においても太平洋戦争の中を生き抜き、終戦後も祖父母は、学業どころではなかった。

日々生きていくことで必死だった。
だからこそ、子供たちには自分たちのような思いをさせたくないと教育だけは惜しみなく与えることを重要視したそうだ。

その影響は慎吾も多分に受けていた。

慎吾はそういった学びたくても学べなかった人たちへの学習機会の提供や、AIに移行する近未来社会における、学び続けることの重要性を形にしたいと考えていた。

しかし、これらを自社の新規事業として行うには、広告業界ではあまりにも事業ドメインが違いすぎる。

この領域をメインに行うべき企業は、業界No.1のBenosseやQ-monが担うべき領域だが、ここに当社が参入するところまで正直会社を動かすこと自体難しく、スピード感、規模感に欠ける。

そこで、外部の企業と業務提携を模索すべきであることを導き出した。

「で、どっちと組む絵を描くわけ?」

佐々木が慎吾に聞いてきた。

「多角的に検討してみたのですが、やはりポイントは業界No.1と組むことが重要だと結論付けました。したがって、Benosseです!」

No.1と組むことの重要性。

それは規模、スピードが伴う事業提案になりそうだ。

だが、問題は、組んで何をするかだ。

組むだけでは何の意味もない。

「それで、具体的に何をする?」

「はい。今回はリカレント教育アプリの提供を考えているのですが、これまでの学習アプリは、小学生のための学習補助だったり、中学受験のためのものが多かったと思うのです。
そうではなくて、高齢者の方やもう一度最初から学び直したい方に向けた

『大人の小学校』

っていうアプリを考えています。

これまで学べなかったこと。

これまで時間が取れなかった方々へ。

もう一度学び直したい方々へ。

さらに、

『大人の中学校』『大人の高校』

とシリーズで出すイメージなんですが今あるコンテンツをリブランディングして見せ方を変えてターゲットに訴求します。」

「へ〜!!すごい!!面白そうじゃん!!」

「本当ですか!!よかった。そう言っていただけると嬉しいです。でもまだまだここからです。PRは当社の腕の見せ所ですから自信はありますが、あとはどうやってBenosseをくどくかです。。。正面から行くと時間もかかりそうですし。。。」

「あの〜。私、Benosseには知り合いがいますので、早速あたってみましょうか。でもあまり期待しないでくださいよ。やつも忙しいんで。」

藤井課長がほんの少し自信ありげに食い込んできた。

「ありがとうございます!!お願いします!!ちなみに、いつからのお知り合いで、どこのセクションの方ですか?」

「あ〜。はい。同級生なんですよ。。。今は、経営戦略室の室長やってますけどw」

「え〜!なんか、ドンピシャですね!!ぜひ、お願いします!!」

慎吾は人のつながりのありがたさと世間の狭さを感じながらも、

『もっとだ。もっと具体的に考えなければ絵に描いた餅だ。。。』

チームの中で、慎吾は焦りを感じていた。

それに向けて具体的な事業の建て付け、費用対効果の算出、事業オペレーションの工数の算定、具体的な組織・人事配置、プロモーションなどを大まかに検討を行っていくことをスタートさせた。

「じゃ、藤井さん、コンタクトお願いします!!佐々木さん。ちょっと具体的な試算をしたいんですが・・・」

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一方の内藤のチームは土屋の地元を具体的なテーマとして事業提案の論理展開を進めていた。

いかに地方の住民のニーズを満たすことが重要か。事業の成否はそこに焦点が絞られた。

田舎に都会をそのまま持って行っても全く意味がないと言われがちだが、地方の住民も流行を求める。特に若い子はそうだ。
そういったものがないからこそ都会への憧れがあって地方を離れていく。

ただ、一度都会に出てみると、地元の良さが見えてくる。

時間の流れ方

日常の自然

人の優しさ

お互いを思いやる気持ち


都会で手に入るものと田舎で手に入るものは異なる。


これを解消して都会の人にも田舎の人にも双方のニーズを満たすやり方は

『高速移動手段の確保』

こそが抜本的な解決策だと考えた。

新幹線の伸長計画が決まっているが、さらにその先の未来をドローンによる低価格短時間移動ができる移動手段の確立を2030年に想定しながら、それぞれのニーズを満たすツアー企画を設定した。

来県人口が増えれば、街は活気づく。

街が活気づくことで経済発展も見込める。

地方の若者も短時間で手軽に都心に行くことができれば、都心に移住する必然性も減少する。地方も都心のような都市化をしてせっかくの景観や街並みを損ねることもなくなる。

これが内藤・土屋チームの提案の軸だった。

この軸を実現可能性が高いものにするため、民間で搭乗できるドローンを開発しているMona研究所にヒアリングを行った。2030年は十分に実現可能であり、かつ想定した価格帯も設定可能であった。

また、2030年まで何もしないわけでなく、ここからの10年間は

・2023年開通 北陸新幹線の伸長
・2025年大阪万博とのシナジー
・2030年新ドローンルート開始

というマイルストーンを引きながらも新たな観光資源とすべく、次のプロジェクトを考えた。

それが

シャッター商店街スケルトンプロジェクト

である。

「土屋さん。このスケルトンプロジェクトってもう少し具体的に教えて欲しいんだけど。」

土屋は温めていたアイデアを話した。

「これはですね、私の地元の鯖江市って物作りの街なんですよ。繊維だったり、メガネだったり。東京では出来上がったものをお店に買いにみなさん行きますよね。それは地方も同じなんですけれど、みんながみたいのは実は完成品だけじゃなくて作っているところそのものに興味がそそられたり、その商品を手に取ろうと思うきっかけになるんです。
ですから、より多くの制作工程を完全に見える化して商店街を歩くと全てが見学できるようにするんです。
商店街が工場見学をしているような感覚ですね。
ほら、屋台で綿あめを買うときに、あの甘い匂いや割り箸に綿あめがどんどんくっついて大きくなるのってみていて楽しいじゃないですか。
あの感覚を商店街の店舗全てで実施するんです。
家具屋さんは家具の製作工程、時計屋さんは時計の修理工程、メガネ屋さんはメガネの製作工程と言った具合にです。
いつでも見学ができる商店街は多分どこにもなくて、新しい観光資源になるはずです!!」

土屋は熱く語った。

「郷土の物産展でよくデモ実演みたいなやつやっているけど、あれの商店街版だな。リソースはどうするんだ。」

「学生のボランティアが可能です。そこでの実技も授業単位として認めていくように高校・大学とも連携を図るんです。そうすることで担い手も養成できます。もちろん、観光で来られた方の中からやりたい方もお見えになるでしょうし、体験入社も可能にすることができると思います。」

「商店街だけでは街の魅力を感じないが、他にメインモニュメント的なものやアミューズメント的なものはないの?」

「西山公園という中規模の山を整備した公園があります。そこにはレッサーパンダが日本一多い日本一小さな動物園があります。鯖江駅から西山公園までをWest Mountain Park Roadとして整備してその通りを見学できるようなルートにして行くのもありですよね。」

土屋は夢が一人歩きしているが、果たして現実的なのだろうか。

「う〜ん。あえていうけどね。発想はいいけど、街はそんなに簡単に変化しないだろう。おそらく何十年とかかる取り組みだぞ。。。それに住民の同意を取り付けてさらに莫大なコストがかかる。」

「ですよね〜。。。」

「そう。長期的な展望は先ほどの新ドローンルートと合わせて検討するとして、もう少し直近の施策を実効性があるものにしようか。」

「そうですね。では、現在の地図をみながらディスカッションはどうでしょう。」

土屋は鯖江市の概略地図を出した。

画像1

出典:鯖江市観光協会より

「このさばえ街なか商店街がターゲットです。ここには様々な商店街があります。ここをターゲットに進めていき、成功すれば各地方への横展開も提案できるかもしれません。」

「ふむ。新しいリノベーションプランにもなるだろうな。では、方向性をこのままにしながら具体的に進める場合はどうする?フロンティアワールドはあくまで広告会社だからうちができるのはPR的なことだ。実際に実行に移すにはどこかと組む必要があるけど。」

「そうなんです。そこで、業界最大手デベロッパーの四井不動産と実施するのが良いと考えています。実績と経験からしても問題はないと思います。また、四井はSDGsの取り組みも積極的ですから、こちらからの提案には確実に共感してくれます。」

「わかった。四井とは以前仕事をしたことがあるから、俺の方から確度としてどれくらいの温度感か軽くヒアリングしてみるよ。ただし、誰がそのプランに金を払うかだ。相当な都市開発をしたとしても観光だけで潤うほど人は流れてこないぞ。採算が合うまで相当長期で借り入れをすることになれば財政も逼迫する。
このアイデアは面白いです。これやりたいです。だけじゃダメなんだぞ。」

「はい!わかってます!!
でも、四井にヒアリングして当たりをつけていただくだけでも助かります!!
費用感も当たりがつくと、具体的な試算もやりやすいですよね!!
ありがとうございます!!内藤さん、めちゃくちゃ頼りになります!!
見直しました!!」

「おいおい。。。みくびるなよ。まったく。何度もいうが、まだまだ詰めは甘い。回さなけりゃ意味がないわけだ。」

「はい!具体的なプランも並行して考えましょう!!内藤さん!!」

「おい。俺頼みだろ。。。それ。」

「あ、それと、鯖江の弱いところは宿泊施設が少ない点です。昼間の観光人口が見込めても、夜はとどまってくれません。ここにも何かしら仕掛けをしなければ、他府県に移動してしまうだけになります。
そこで、県内で希望される戸建てについては全て民泊登録をするのはどうでしょうか?さらにユニークな宿泊施設ということでJRの在来線車両型宿泊施設を作るのも良いかと思います。
住む体験+旅の延長にある動かない鉄道での宿泊体験というコンセプトを打ち出すことで宿泊施設問題も同時に解消していきます。」

「わかった。お前、分析だけかと思っていたら、アイデアがたくさん出てくるな。。。企画の方が向いてるかもな。」

「いえ、これは地元愛です!!」

「地元愛か。。。結局、自分ごとに考えられるかどうかが成否の鍵だよな〜。」

内藤はやはりプレゼンの肝は念いに尽きると思った。

どこまで自分ごととして捉えられるか。

もしかすると、丸山部長はそのことを気づかせるためにこのプレゼンノックをやっているのではないか?とすら思えてくる。

「さて、まだまだ、必要なステークホルダーが想定されなければいけないな。ドローンでの移動手段を確保してもそれをツアー化する上では旅行会社とのタイアップも検討する必要がある。デベロッパーだけじゃなくて地元の行政や商工会議所など地方創生と地方共生の方向性もすり合わせが必要だ。今回そこまでのロビー活動をする必要はないにしても、どういったことを彼らが考えていてその方向性が近ければ話をもって行きやすくなるわけだから、まずはその情報収集も行おう。
そして、ここからが重要で、さらに細部を詰めて行く必要がある。
事業提案でこれまでの色々やってきたが、大切なのは

『どこまでピントがあった鮮明な図面を描けたか』

だ。適当な線を引いていたら絶対実現しない。
それができたら概算で試算するぞ。試算のパートまでは土屋がやるんだ。
俺の方では関係する企業や団体へのヒアリングを進める。
そこで肌感覚を掴んで実施可否も含めてディスカッションだ。」

「はい!!了解しました!!」

大きな所と小さな所の観点のキャッチボールを繰り返しながらそれぞれの実効性を確認していく作業の繰り返しは、いつも内藤が行う企画検討そのものだった。

確度が高いもの、低いもの、どこに話をするべきかなどは肌感覚でわかっている。
実務で得ている成功体験がこれらの計画の実効性を高めていく上でこのチームの強みになっている。

合わせて土屋の念いと実行力。

内藤は一人で行うよりも数倍の成果になることへの手応えを感じていた。


プレゼンノック。

個人力からチーム力へと昇華しつつあった。

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