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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第34話 狼煙

前回のお話

MIYABEプロジェクトの狼煙を慎吾はあげた。

・企画部:吉田慎吾

・マーケティング部:内藤翔太

・営業推進部:佐々木優子

・データ分析部:土屋薫子

・総務人事部:藤井剛

旧フロンティアのメンバーへのアサイン。

それは、フロンティアが丸山の肝煎りのMIYABE.COの企画を実現させるためにM&Aされたかのような見方すらできるものであった。

さらに、マーケティング部で至る所にネットワークを張り巡らせた内藤が強力な助っ人をアサインしてくれた。

・Webデザイナー:後藤健一

・カスタマーサービス:吉本洋子

・情報システム:滝上智

・財務部:遠藤幹也

そして、営業に異動となった吉田の部下の橘祐介だ。

今回のプロジェクトの責任者は執行役員の丸山である。

かといって丸山が責任者だから全ての案件がスムーズに通るわけではない。むしろ障壁の方が大きい。

そこをこの10人のプロジェクトメンバーで乗り越えることが大きなミッションだ。


MIYABE.COのプロジェクトを成功させるには

会社内部で闘わなければならないというなんとも面倒な戦だが、

明治時代の夜明けを創り出すような気持ちで吉田達は立ち上った。

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「今回は丸山さんを筆頭に11人の構成メンバーとなります。早速プロジェクトを進めたいと思います。」

吉田が神宮寺に伝える。

「そうですか。今回のプロジェクトはMIYABE.COの一大イベントになりますから、適宜私に報告してください。
プロジェクトの最高責任者は丸山役員ですが、リーダーは私です。あなたは現場の責任者です。
何事も私を通さなければ認めません。


プロジェクトメンバーは総勢12名

いいですね。」


吉田は怒りを通り越して呆れていた。


敏腕で通っている神宮寺のやり方は他の案件を見ていて良く分かったのだが、様々なプロジェクトのリーダーとして名前を連ねるものの実質別のメンバーが責任者として対応しており、美味しいところだけ持っていっているようなものだった。

とはいえ、的確に指摘をするところは敏腕と言われる所以である。そこには一目を置かざるを得なかったが、社内政治をたくみに行っていく狡猾さに吉田は嫌気がさしていた。

話をしながら神宮寺は手元のプロジェクトメンバー表にペンでプロジェクトリーダー 吉田慎吾のところに線を引き、神宮寺まどかに書き換えた。

「これでお願い。
報告は毎週火曜日10:00にレポートするように。
期待してますよ。」

ーーーーーーー

以前、丸山が直属の上司の時にも同じセリフをかけてもらった。

『期待してますよ。』

同じ言葉でも全く違って伝わってくる。

丸山に対して抱いた心の底からこの人のために尽くそうと思えたあの頃の気持ちとは全く真逆の感情だった。


『あなたに期待などされたくない。』


ーーーーーーー

いよいよ、プロジェクトはメンバーを招集してキックオフからスタートした。

丸山をはじめとした精鋭部隊が300番会議室に集まった。


「みなさん、集まってくれてありがとう。」

丸山のスピーチは静かな会議室にガラスを上を滑るように響いた。

「今回のMIYABE.COのプロジェクトは20億のプロジェクト規模だ。
決して小さい額ではない。
しかし、正直に話すと、このプロジェクトが未だ始動していなかったことに問題がある。
これは私に責任がある。
申し訳ない。


だが、ここから一気に詰めていく。
そして、世界へ発信し、歴史にこのプロジェクトを刻む。
ここにいる私を含めた12人のメンバーがそのコアメンバーだ。
さまざまな困難があると思うが、私も矢面に立つ。

私たちで新しい風をビズルートに起こし、

ビズルートを改革していきたいと思う。

みんな、力を貸して欲しい。

よろしくお願いします。」


丸山は深々と頭を下げた。


内藤をはじめ皆が拍手をする。

ただ一人、神宮寺を除いて。
神宮寺は腕組みをして話を聞いていた。


それぞれが抱える念いを

それぞれが丸山の言葉で念いを一つにした。


皆が心の底で感じていたこと。


ビズルートを変える


大企業病になったビズルートを大きく変えていく。

MIYABE.COのプロジェクトにはそんな念いも込められていたことをメンバーはこの瞬間から共有した。


次に神宮寺がプロジェクトリーダーとして話しはじめて状況はまた変わる。

「私はこのプロジェクトをなんとしてでも成功させていただきたいと思っています。
プロジェクトの成功がビズルートの将来に、未来につながります。
進捗が遅れたり、誰かが足を引っ張るようなことがあれば、すぐさまメンバーを入れ替えるつもりです。
みなさんに期待しているのは結果です。
結果を出してください。

私からは以上です。」


とにかく結果を求めることを強調した神宮寺の言葉には脅迫は感じられながらもメンバーがエンパワーされるものでは到底なかった。

神宮寺は自分の役割を終えたかのように話し終えた足でそのまま会議室を出ていった。

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「まずは、ビズルート内を知るべきだと思う。」

内藤から状況把握としてビズルートのヒエラルキーを見える化したものが共有された。


ビズルートは大きく3つの派閥に分かれていた。


営業系トップ  石渡幸久 専務 が率いる石渡派。

マーケティング系トップ 宮本大山 常務 が率いる宮本派。

技術系トップ 梅田冬馬 常務 が率いる梅田派。


そして、ビズルートをまとめる代表取締役 千石克利。

千石は営業上がりであるため、石渡派が母体となっている。

更にその上に会長としてビズルート創業家の大東光喜がいるがすでに80歳を過ぎ、名誉職的な立場となり事業にはほとんど介入していない。


吉田の直属の上司である神宮寺は石渡専務のお気に入りであり、石渡派の急先鋒だ。
丸山は宮本常務の直々のヘッドハントで転職したため、マーケティング部門では風通しは良いものの宮本自身がビズルートのプロパーでは無いため派閥的にも一番小さいものとなっていた。

今回のプロジェクトでは神宮寺が石渡専務から派遣されたお目付役であり、更に千石社長へのレポートラインとして評価を勝ち取り石渡派の存在価値を押し上げることが狙いと見て取れた。

ーーーーーーー

「いい成果をあげても、お手柄は石渡派のものになるっていうことね〜。」

佐々木が少し不貞腐れて、冷めたコーヒーに口をつけた。

近くにある喫茶店でテイクアウトしたコーヒー。

豆にこだわっているせいか、冷めても味は落ちていなかった。

コーヒーの口当たりとは異なって事態は重苦しい。

「とにかく、丸山さんのやりたかったことを、そしてこの企画を更によくしてプロジェクトを成功させることが第一だ。
その先にあるMIYABE.COのパビリオンに触れることで感じてもらえる未来やその未来をワクワクする世界になるように。
そして、そこからこのビズルートが変わることに期待して俺たちが今をしっかりやり切るしかない。」

内藤が熱く語る。内藤の話は途切れることなくいつまでも話が止まらなさそうだ。それくらい念いが強く高まっている。
溢れてくるとはこのことだろう。

佐々木も飲んでいたコーヒーが少し暖かく感じるくらいの熱量だった。

「社内の政治的な話って本当に苦手なんだよね〜。面倒臭い。巻き込まれたく無いんだけど、しゃーないよね〜。」

佐々木の言葉を聞きながら、メンバーはみなそれを分かった上であえて誰も口にしないようにしている。

「佐々木さん。俺もそう思います。同じ会社であればみんな家族みたいに思う方がうまくいくはずです。なのに、なんだか残念ですよね。。。だから、このプロジェクトで俺はみんなを家族にしたいと思います!」

吉田の言葉に、佐々木は『また吉田のいい子ちゃんが始まった。。。』と半ば呆れながらもそうなるように力になりたい思いが募っていた。

「さて、始めましょう!プロジェクトはまだ富士山の2合目くらいですよ。」

藤井が年長者らしくフロンティアの頃と変わらず全体を促すようにまとめた。

ガントチャートを引き、各部署へのタスクを明確にしてプロジェクトはスタートしていった。

全体管理を積極的に藤井が情報を取りにいきながら行い、少しの遅れもないように解消していく。


メンバーたちは関係セクションに根回しをしながら進めていった。


毎週火曜日のレポートを吉田が神宮寺にあげ、神宮寺は石渡専務に報告していく。

神宮寺からは特段何も言われず、吉田は半ば肩透かしを喰らったかのようだったがとにかく目の前のことを進めた。


ーーーーーーー


「神宮寺。MIYABEの案件は順調そうだな。で、丸山はどうだ?」

石渡は宮本が鳴り物入りで引き抜いてきた丸山を気にかけているのは神宮寺も理解していた。

「はい。リーダーシップを発揮してメンバーを上手く取りまとめています。人格者といったところでしょうか。このままいけばプロジェクトは成功すると思われます。」

「ふむ。神宮寺。分かっているか。プロジェクトは成功させろ。ただし、丸山はつぶせ。できるか。」

石渡の意図を神宮寺は長い付き合いの中で熟知していた。

「もちろんです。すでに手は打っております。」

「相変わらず頼もしい。任せた。」

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神宮寺は速やかに会議室を出てすぐさまスマホからメッセージを送った。

『pj E start』

すぐに返信が来た。

『Yes』

返信を見届けて神宮寺は電源を切った。


この役回りを始めて3年になる。

役職を上り詰めていくことで見える世界が変わってきた。

だが、今回の旧フロンティアのメンバーの真剣なプロジェクトへの参画とアクション、スピードなどは神宮寺にとって羨ましく映るものだった。

『あんなチームのメンバーに自分も入れたらどんなにいいことか。
でも、私にはもうこの場所しかない。。。
ここでしか存在価値は出せない。。。
出してはいけない。。。』


神宮寺まどか

彼女も大きな縦割りの大企業の中で自分の存在価値を維持することに精一杯だった。
30歳で企画部長として歩むには犠牲がつきものだと割り切っている。
ただ、このままでいいのかどうか。
盲信的にひたすら走り続けるほど単純でもなくなってきていることを感じていた。




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