見出し画像

[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第38話 クロスロード

前回のお話し

「で、私にどうしろと?」

神宮寺まどかは吉田と会議室で向き合った。

「神宮寺さん、あなたは石渡専務の指示で丸山役員をはじめ、このプロジェクトに手を出されていますね。」

「・・・・。」

「私には神宮寺さんが好きでこのようなことをやっているようには思えないんです。
あなたは、その先に何を見ているんですか?
この会社での出世ですか?
お金ですか?」

「・・・。わかったようなことを言ってくれるわね。
女である私がこの会社で勝ち上がっていくにはそれなりにやらざるを得ないことがあるのよ。
あんたにはわかんないでしょ。」

まどかは語気を荒げた。

面と向かってそんなことを突きつけられたことは入社してから一度もない。

ましてや、置かれている立場のことなど分かりもしないやつに言われたくは無かったから余計声を荒げていた。


「わかりません・・・。

でも、一つわかっていることは、

どこであれ

誰であれ

人生は一回しかない。

だからこそ、

自分の人生の時間の大半を使う『仕事』を通じて

自分にとっても

世の中にとっても意味のあることをやり遂げたいと私は思っています。


神宮寺さん、あなたが今やっていることは

本当にやりたいことなんですか?


吉田は詰め寄った。

神宮寺が眉間にシワを寄せながら投げつけるように話す。


「は?やりたいことをやるためにやらざるを得ない手段をとっているだけよ。」


「手段。

なるほど、その手段は納得いくやり方なんですか?

私にはそうは思えないです。

他にもやり方がいろいろあるはずです。

私は本気で丸山さんのプロジェクトを成功させたい。

ベストメンバーで行いたい。

ひいてはMIYABE.COの取り組みが世界に発信されて、

ビズルート社の成果にもつなげたい。


今のやり方で出てくるアウトプットに、神宮寺さん。

あなたは後悔しないんですか?


「は?

仕事はいくらでも回ってくる。

今回が最後じゃない。

明日も、明後日も、来年も再来年も来ます。

一つ一つをこなしていくことで結果が積み上がるものなのよ。

なに綺麗事言ってんのよ。」

慎吾は身を乗り出した。

違う・・・。違う、違う、違う、違いますよ!神宮寺さん!

一つ一つは一回しかやってこないんです。

MIYABE.COの今回の仕事は1回しかないんです

その1回を精一杯やり遂げたいんです。


卒なくこなすんじゃなくて

最善を尽くしたいんです。


神宮寺さん。

一緒にやりませんか。

本気で一緒にやりませんか。

石渡専務の社長レースの為の仕事ではなく、

クライアントを向いた仕事を。


お願いします!!」


慎吾は深々と頭を下げた。


まどかの心は揺らいでいた。

そんなことは十分わかっている。


「・・・。

甘い。

甘いんだよ。

そんな簡単に青臭いことだけで会社は回らないのよ・・・。」


苦々しい思いだった。

吉田の話は正論。

だが、会社の中ではそんな正論だけでまかり通る所ではない。


むしろそんなものは一瞬で消しとばされてしまう。


私がそこに飛び込んでも私ごと飛ばされる。


代わりはいくらでもいる


なくてはならないものになるためには犠牲はつきものなのだ。

それが嫌ならこの会社ではないところで勝負をすればいいだけだ。

なのに食らいつく吉田を腹だたしくもうらやましく思えた。


「神宮寺さん。

迷ってますよね。」


「・・・。」


「おそらく、これから先もずっとあなたは迷い続けますよ

迷って迷って、

そして今日でなくても、

いつの日かその迷いを断ち切る日が来るはずです。

それが今なのか

先なのか。

1年後なのか

10年後なのかは分かりません。


いずれにしてもあなたは決めるんです。


そこから抜け出すために。


いつかのことを考えて悩むくらいなら


今やるべきです。



「・・・。」


まどかは何も言い返せなかった。

そんなことはわかっている。

十分わかっている。

でもここまできてしまった自分を否定できない自分がいる。
入社して8年。
石渡専務に見出してもらってから5年。

どこでどう間違ったのかなどわからないくらいに、会社のためにと思ってやってきたことが全て崩れていく感覚を突きつけられたのだった。

その時、まどかのスマホ画面が光った。

石渡専務からの呼び出しだ。


表示された名前を見た瞬間、一気に現実に引き戻され、冷静にゆっくりと自分の手を見つめた。


「・・・とにかく。

あなたは、今のメンバーと共に、MIYABE.COのプロジェクトを成功させるべく邁進しなさい。

余計な詮索は不要。

業務に集中すること。

これは命令です。」


神宮寺はそう言って会議室から出て行った。


慎吾は椅子の背もたれに首を預けてしばらく天井を見上げてからスマホに手を伸ばした。

内藤の番号を押して、先ほどと同じように天井を見つめながら耳元にスマホをあてた。


「内藤さん。

今、神宮寺さんと話しました。

はい。

すみません。

失敗でした。


ですが、必ずこちらに来ます!


慎吾は確信を持って強い口調で伝えた。


「なぜそう思うんだ?断られたんだろ?」

内藤の質問に慎吾は即答した。


「カンですよ。カン。」


「カンか・・・。」

内藤は吉田の全く根拠のない自信が今はなぜか確信めいたものに聞こえてきた。

否定すること自体、むしろ馬鹿馬鹿しくさえ思えた。


「わかった。で、次はどうする?」


「吉本洋子です。彼女に話を聞いてきます!」


慎吾は頭をあずけていた椅子から立ち上がり会議室を後にした。

ーーーーーーーーーーー

吉本はすでに解雇となっていたが連絡はすんなり取れた。

佐々木が吉本の元同僚と繋がっていてLINEでたどることができたのだった。

吉本をいつもの銀座のBARに呼び出して佐々木と3人で会うことにした。

ーーーーーーーーーーーー

「洋子さん、ここのモスコ、めっちゃ美味しいから。おすすめ!」


佐々木が促して有無を言わさずモスコミュールを2つ注文する。

慎吾には何も言わなくてもターキーのシングルとチェーサーが出てきた。

お通しのきゅうりにすら手もつけずに洋子は話し始めた。


「私、いまだになぜ解雇になったのか・・・。納得がいかないんです。

配属した記憶のない、テンタントの社員だったことや、私が何か不正をしたように人事から言われたんですが、事実無根なんです。

信じてください。。。」

悲痛な叫びだ。

会社に反論したくてもさせてもらえない。

警察沙汰となることを示談で歪められて同意させられたことに納得などできるはずがないだろう。


「わかっています。

大丈夫です。

私たちは味方です。

なんとかあなたが職場に復帰できないか、いろいろと策を打ちたいと考えているんです。

なので、いろいろとご協力をお願いしたいと思っています。

洋子さんは最初からカスタマーサービスに配属されていたんですか?」


慎吾の質問に少し洋子は落ち着いた様子。


「はい。ビズルートに入社してからずっとカスタマーサービス部でした。

6年前に結婚して2年前に出産で育休をいただきましたが、その後もまたカスタマーサービスに戻ってきました。」

「育休中にテンタントへの出向、兼務の発令が出ていたようですが、何も聞かされていなかったということですね。」

「はい。何も。」

「あなたの上司も知らなかったのですか?」

「はい。上司も知らなかったようで、最終人事に呼ばれた時に聞かされて驚きました。私は本当に何もしていないんです。」

その後も話をしたが、洋子は何も知らなかった。

完全にでっち上げられたものでこれ以上の糸口はつかめないかに思えたが、洋子の旧姓が水上であることを知った。

水上と聞いて慎吾は水上昌浩の名前を出すと、洋子の父親であることがわかった。


つまり、洋子の父、水上昌浩はテンタントの元社長であり、その娘である洋子がその会社に出向して不正を働いたという流れとなっている。

テンタントの成り立ちから今回の親子での関わりというかなり長期間にわたって仕組まれた青写真があることが見えてきた。

ーーーーーーーーー

後日、内藤の調査では、藤井だけでなくテンタント絡みで同様に失脚させられた社員が何人か存在し、いずれも何かしらテンタントに端を発して解雇となっていた。


おぼろげながら全体像が見えてきた慎吾は勝負を決意した。


次の経営会議・・・

そこでMIYABE.COの進捗を報告する。

そこが勝負だ。


ーーーーーーーーー

経営会議では神宮寺がプレゼンを行い、MIYABE.COのプロジェクト進捗報告を行うことになっている。


経営会議は、

千石社長
石渡専務(営業本部)
宮本常務(マーケティング本部)
梅田常務(技術本部)

がメインで出席する会議だ。

事前に準備したスライドを投影して神宮寺がプレゼンをはじめた。

慎吾は補助として同行していた。

最後のスライドを説明し終わった後に神宮寺の知らないスライドが表示された。


名称未設定.001


「神宮寺くん、なんだね?One more thing・・・。

スティーブ・ジョブズのマネかね。」

千石社長が聞いてきた。

「いえ。こんなスライドは入れた覚えがないのですが・・・。吉田くん。どうなってるの?」

神宮寺の質問を無視して慎吾は千石社長に向かって話し出した。


「千石社長。」


慎吾は神宮寺の後ろから前に出てきた。

視線は変わらず千石に向けられている。


「私に1分だけ時間をください。」


プロジェクターから映し出される画面は次のスライドに切り替わっていた。

名称未設定.002

「吉田、お前、何を言い出してるんだ。いますぐ出ていけ。」

石渡が慎吾をにらみながら言葉を突きつけてきた。


慎吾は石渡専務の発言を無視して続けた。

「社長はテンタント絡みで丸山役員が謹慎していることをご存知ですね?

テンタントの事象はでっち上げの内容で過去に何人もの社員が解雇されている事実を社長はご存知ですか?」


「吉田!」


石渡の声を制したのは千石だった。


「石渡。うるさい。

吉田といったか。

続けろ。」


静かに千石は慎吾から目を逸らさずに伝える。


「ありがとうございます。

今から1ヶ月前に起きたテンタントという架空の会社を通して横領したとされる社内不正が発生したことはご存知かと思います。

それに藤井という社員が関与し、ビズルートの予算をテンタント経由で不正に横領していたとされるものですが、調査をしたところそれは真っ赤な偽の情報であり、そこにお見えになる石渡専務が指示を出して動かしたことがわかりました。

これによって、不当な処遇を受けているものが今回に限らず過去にも複数人存在した事実も掴みました。

こちらのデータをご覧ください。」

慎吾は新たにスライドを表示した。

・藤井工業から藤井に融通された記録
・その資金が藤井の母親の老人ホーム、子供たちの進学に使用されているデータ
・さらにテンタントが架空名義の企業である実態を証明する登記簿及び法人所在地の写真
・テンタント元社長の水上昌浩と今回の吉本洋子の関係
・さらに過去の該当者の解雇によってその都度社内での実績及び評価を勝ち取っていった石渡との関連性を示した状況証拠

などが表示されていった。

「これらから石渡専務が指示を出していたものという推測に至りました。
石渡専務。いかがですか?」

慎吾が詰め寄ったが、石渡は全く動じていない。

「吉田。
このプレゼンでは、私が指示を出した証拠は何も示されていない。
お前の推測の域を出ていない。
こんなもの納得するはずないだろ。


お前は元上司である丸山をかばいたい。


私にはそのようにしか聞こえてこないがな。


社長。

次の議題に移りましょう。


吉田。お前は経営会議を勘違いするな。


直訴する場所じゃないんだぞ。


出ていけ。」


千石は黙ってそのやりとりを見つめている。


「社長。

このままこの会社は都合が悪い人間を陥れるようなことを当たり前にしていて本当に世の中に価値を提供していくことができるんですか?

私は納得いきません。

私が元いたフロンティアワールドでは、少なくともこんなやり方を当たり前にして見過ごすようなことは断じて無かった。

買収されてビズルートの一員になった以上、

この会社を変えて

さらに未来を作り上げる仕事をしたい。

社長。

未来を変えませんか?」


慎吾は切り込んだ。


千石は慎吾から目を逸らさずに黙って聞いている。


「吉田。

いい加減にしろ。

出ていけ。

お前の話は子供が泣き喚いているようなことだ。

まだわからんのか。

おい、神宮寺、お前の指導がなってないぞ。」


黙っていた神宮寺が千石社長に向き直した。


「社長。

先ほどから吉田が話している内容は、真実です。」


経営会議室の空気が硬直した。


「神宮寺、お前何を言ってる・・・。」


石渡専務の表情は険しさから青ざめていくのがわかった。


「私はこの5年、石渡専務より指示を受けて先ほど吉田が提示した内容に従事させられてきました。

私がこれまでに石渡専務よりうけた指示の内容は全て手帳及びスマホのメッセージに残っております。

大変申し訳ありませんでした。」


神宮寺の言葉は静まる会議室に響き渡った。


「神宮寺。お前何をわけのわからないことを言ってるんだ。

社長、私はそんな指示を出した覚えはありません。

これは神宮寺と吉田の仕組んだ私をおとしめるための虚言です。

さては、宮本常務。あなたの策略じゃないのか?」

石渡は矛先を宮本常務に向けた。


「石渡専務。

あなたは失礼な方ですね。

この状況で見苦しい。

言い訳は聞かない状況ですよ。」


宮本常務は言葉を続けた。


「千石社長。

本来であれば、私から直接ご報告する予定でしたが、

想定外に経営会議のこの場で直言がありましたので、私からもお話をさせていただきます。

それにあたり、もう一名この場に呼んでもよろしいでしょうか。」


「わかった。」


千石は許可を出した。


しばらくして経営会議室の扉を開けて入ってきた社員がいた。


その姿を見て慎吾は驚きを隠せなかった。


そこに現れたのは財務部の遠藤幹也であり、プロジェクトメンバーでもある遠藤幹也だったからだ。

サポート大歓迎です。!!明日、明後日と 未来へ紡ぎます。