原くんの料理

僕たちが運営する古民家では月末の土曜日にプチ合宿をおこなっている。
これはゲーム・スマホ中毒の子どもたちや創作活動したい子供たちと夜焚き火をして、早朝から学習・創作する習慣をつけようという活動だ。

今年に入って、担当教師は原くんになった。
参加した子供たちにプチ合宿どうだったかとたずねると、決まって「原先生の料理がめちゃめちゃうまい!」と言う。

原くんと出会って間もないころ、たぶんあれは日曜日の焚き火の会だったかと思う。彼は古民家の活動がどんなものか見学しにきていた。
その頃は、まだ法人化する前で、基本的に古民家全体の管理と調理場を全て僕が担当していて、前夜のご飯からその日の朝飯、昼飯をつくり、それから学習時間の管理もしていた。
昼過ぎごろ、僕が他のことに気を取られて台所を離れていたとき、見学中の原くんが、古民家の台所に溜まった洗い物を片付けてくれていた。
窓からその様子をちらと確認すると、当たり前のことのようにさらっとやっていた。

台所でお礼を言って片付けたものを一緒に棚に戻したのだが、彼は皿を破れないように載せ、先に拭いてしまえるものは水をぬぐって、先に元に戻していた。シンクや床に水しぶきも飛んでいない。ちゃんと拭き取っていた。
それをみて「あぁ、この人料理できる人なんだな」と思った。

10代の頃、料理人の母親が、妹に料理を教えているときにこっそり聞いたことがある。(ちなみに僕は、実家にいた10代のころ料理を全くやってない。家事のほとんどを妹にやってもらっていたと白状する)

母は、「本当に料理がうまい人は片付けも同時におこなう」と何度も言って、料理と共に片付けのやり方も妹に教えていた。
確かに料理をやりはじめて気づいたのだが、調理スペースは限られているから、何かを切ったら、すぐに片付けて、またスペースをつくるということを繰り返さなきゃいけない。どの順番でやったら、まな板作業・片付け・焼く煮るを効率良くできるようになるのか、考えながらやらなきゃいけない。やっていれば、だいたいそんなこと考えなくてもできるようになるのだけど、原くんもそれが自然とできるタイプなんだろうなあと片付け方を見ていて思った。

原くんの料理がうまいのは彼が理系だからというのもあるだろう。よく「料理は科学」と言われるが、原くんは、仕込みからかなり時間をかけて料理をつくる。おそらくお菓子やパンも上手にちがいない。
味覚だけを頼りにするのではなく、科学的にきっちり料理する。感性と知性フル回転の賜物だ。

合宿では原くんには夜の料理を時折お願いしつつ、子供たちの理科数学の質問にも答えてもらう。
料理もできて理系の質疑応答も答えられる。そしてカヌーインストラクターであり、川遊びの救命方法も知っている。しかも数年間シェアハウスで共同生活していたこともある。

彼が合宿に最適な人材であることは言うまでもないだろう。

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