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連載04「空き家バンク」

その年の春。いつものように各地の空き家バンクを見ていた。
空き家バンクは、手つかずの空き家の持ち主が行政に権利を譲り、代わって行政が売買・賃貸契約を行う行政システムの一つ。全国の過疎地で実施されている。
僕は東京近辺の空き家バンクを毎週確認することを日課にしていた。

その日、奥多摩の空き家バンクに、賃貸物件が新しくアップされていた。
それは御嶽駅から徒歩10分にある古民家だった。だから奥多摩といえども青梅市と隣接している。都心に近くアクセスしやすい場所にある。
公開されている図面を見ると、トイレと浴室は7年前にリフォーム。室内は板の間と和室22畳分で庭と畑付き。申し分ない。
だが、これまでの空き家探しで僕は警戒心が強くなっていた。うまくいくと思っても、向こうの都合で契約不成立ということが何度もあった。
断る理由はさまざま。
当初二束三文の土地を買い取るつもりで動いていたが、そううまくいかなかった。先祖代々受け継いだ土地をそう易々とは売ってくれない。


そこで、賃貸物件を探した。不動産屋は役に立たない。山奥の安価な物件の契約など不動産屋にメリットはない。奥多摩の知り合いを頼りに、現地で土地を探した。


だが、安価で貸してくれる物件はなかなか見つからない。賃貸契約は、持ち主にメリットが少ない。田舎だからペイも少額。わざわざ時間と手間をかけるには面倒だという家主・地主の気持ちも分かる。


しかも昔から持っている土地・家をよそ者に貸すのはリスクがある。隣人とトラブルを起こすような人には貸したくない。また、よほどお金に困っていると、隣人に噂されたくもないという本音もあるはずだ。


こうして、空き家がある割に借りたいと思える物件はなかなか現れない。
ようやく空き家を貸したいという人が現れても契約にたどり着くのは難しい。


始めは乗り気だったのに、契約が具体的になり始めると、時間をかけた分を取り戻したいと思うのだろうか、家賃をつりあげることもあった。あるいは、そこまで露骨でなくとも、条件がもっといい日当たりのいい物件を紹介する代わりに今の物件をあきらめるように言われたこともあった。新しい物件は前のより家賃が高かった。

この頃、そんなふうに何度も苦戦しつづけていたから、ますます警戒心は強くなっていた。
だが、自分で言うのもなんだが、僕のいいところは、それでも懲りずにとりあえず行動することである。

その日のうちに奥多摩町役場に連絡して、今日物件を内見できるか問い合わせた。

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