芦屋国際中に合格

受験までの間、何度かだけ作文の面倒を見た生徒が芦屋市にある兵庫県立芦屋国際中等教育学校に合格した。
彼女は、趣味の馬術クラブで共に習っていた、アシコク通学中の先輩の話を聞いて受験することにしたらしいが、これまで塾へ通っておらず、土壇場で神戸北区のモンテッソーリ子どもの家でおこなっている作文道場に参加して対策することになった。

芦屋国際の出題教科は作文と面接。そして志望理由書だ。
これだけで判断されるので、自分の考えていることが書けるかどうかが問われていることがわかる。

しかし、作文道場に来るのは1月の2回だけ。マジでギリギリ。
その前に志望理由書を書きたいということだったので、オンラインセッションをおこなう。
知り合いでもある子どもの家の先生は「ファンキーな子やでぇ」と言っていたが、はじめてオンライン上で話すRちゃんは、素朴でつるんとした印象。塾に通わず好きなことに時間を費やしてきたことがわかる。
ただ、姉がいるからか、このときは、口数は少なく、考えていることを表現することに慣れていない印象であった。

趣味の話や学校での様子などを聞き、一度志望校である芦屋国際の教育目標を共に確認することにした。

1. 言語環境や文化的背景の異なる子どもたちの相互啓発により、共に生きる心をはぐくみ、多文化社会に生きるにふさわしい人間形成を図る。

2. 個に応じた指導の充実により、基礎・基本を確実に身につけ、それを基に自ら学び、考え、判断し、行動する力を培う。

3. コミュニケーション能力や異なる文化を理解・尊重する態度など豊かな国際感覚を備え、 国際社会に貢献できる力を育てる。

校訓は「Respect/Integration/Contribution」で、特徴が「6年間を通じて、異なる言語環境や文化的背景のもとに育った生徒が、能力や適性に応じて弾力的に学ぶ中高一貫校として、教育活動を展開します。」とある。

これまでの試験問題をみてみると、「社会にどう貢献してきたか、これからどんなことに貢献したいのか」という出題が目立つ。
他民族の学校で、生徒の6割は日本文化に慣れていない。だから、文化差による解決不能で理不尽な問題も多いだろう。そういうのも受け入れられるある種の大らかな人柄や対話する力があるかが争点になりそうだ。

これをもとに、彼女の馬術以外の趣味を聞いてみると、韓国が好きで、いつか行ってみたいということ。
KPOPが流行しているので、そういう志の子は多いだろう。
そこでもう少し深堀してみる。

「なんで韓国に行きたいの?」
「韓国の人と話してみたいです」
「へえ。英語で?」
「いえ、韓国語で話したいんです」
「どうして?英語で通じるんだから、韓国語でなくてもよくない?」
ここで彼女は答えに窮する。しかし、こここそが、彼女のこだわりポイントであり、志望理由書に書くことだろうと思う。

・何となく韓国が好きだったが、どうも韓国語、つまり相手の母国語で話すことにこだわっている。
・以前、外国人に日本語で話しかけられるとうれしかったことから、相手のことばで話す方が、相手に自分の気持ちが伝わるんじゃないかと思う。
・だから英語だけでなく、他の言語も学べる芦屋国際に入りたいと思った。

といった趣旨の志望理由書を書くことにした。

さて、それから1週間後、志望理由書提出後、過去問を確認しながら、ある程度「ネタ」を準備することにした。
社会とのつながりについて聞かれることが多いことから、「世界のなかで気になる問題、自分が少しでも解決したいなあと思ってることはないの?」と尋ねてみると、
「ゴミの問題が気になる」とのこと。

これにはきっかけがあるらしく、小学校の近くの公園でゴミがたくさん落ちてることがあったらしく、それを学校の先生が見つけたそうだ。
あまりに多いので、拾えてないんだよねえと先生の話を聞いて、同級生と「一緒にゴミを拾いにいこう!」となった。
それで、同級生と一緒にいつも遊んでいる公園のゴミを拾ったそうだ。
先生の雑談がきっかけではあるが、これは子どもたちが自主的に行動したことだそうで、行動した後とっても気持ちがよかったそうだ。

ということでちょっと視点を広げてみる。
「へえ。おもしろいねえ。世界中にもゴミ問題があるもんね。世界のゴミを集めることで経済を回してる国もあるし」
「どういうことですか?」
「先進国のゴミを買うんだよ。うちの土地が余っているから、ゴミおけまっせって。違法かもしれんけど」
「どんな国で?」
「アフリカとかかな」

そういう国があることを知らなかったらしく、彼女は目を丸くして話を聞いていた。
実際に会ってみて、わかったことだが、彼女は自分が経験したことは非常に微細に覚えている。暗算させてみても、イメージ力も十分ある。余計な「教科学習」をしていないからイメージする力が備わっているのか。
分からないが、いずれにせよ、具体的に体験しないと話にならんこともわかった。
それで「馬」以外の目的でどこかへフィールドワークしているのか保護者に尋ねると、「そうしたことは全くない」ということだったので、作文の書き方をある程度教えたら、フィールドワークする場所を探すことにした。

神戸にはJICAの立派な展示がある。多国籍ランチが有名で、私も食べに行ったことがある。隣には県立美術館もあるので、けっこう時間つぶせる場所だ。
また、KICCという国際交流団体の活動も充実している。
日本語音読を広めようと以前フィールドワークしていたこともあり、KICCの豊富なワークショップが気になっていた。韓国語の無料ワークショップもある。それらを彼女に紹介。

ということで、
保護者に、試験ギリギリまで時間の許す限り体験フィールドワークへ出かけることを薦める。
KICCでの言語ワークショップ、JICAでの世界のゴミ事情の調査、ゴミ処理場施設の見学など

見学したらその場でそれを書きまとめる。それが最も効率よく「ネタ」にできると。

本人の強い関心のあるテーマが決まっているから、とことんフィールドワークに付き合うことで、よりビビッドな文章が書けることだろう。
しかも、これまでこうした学習をしていないことから、水を得た魚のように、みたものはすべて覚えているかもしれない。

そんなふうに後は家庭での学習に任せ、作文道場を終えた。
すると、数週間後「先生受かりました!」の報告。

本人にどんな問題が出たか聞いてみると、
社会に貢献したこととこれから社会貢献したいことについて問われました。自分の体験と世界の状況について触れながら、書きまとめたら、20分くらい時間が余っちゃいました」とのことだった。
ということで、見事準備したことが出題される結果となった。

準備したことが出たのはラッキーだったが、異なる方向性のテーマであったとしても、あれだけ強い意志と体験があれば、対応できただろうと思う。

芦屋国際は、60%が帰国子女・外国籍の生徒。日本国籍の国内在留者のみの倍率なら6,7倍だ。よく受かったなとは思った。

この学校は外国在留者が過半数なので、「エッセイ」以外の問題を出さない。
どうして作文だけの試験なのか?
現実的には2つあるだろう。
まずは帰国子女や外国籍の子どもは、日本語で書かれた文章を読み解く力が弱いため、試験問題を作成してもほぼ解けないだろう。だから自由作文形式にしている。
一方で、英語のサイエンス系の試験問題を準備する人材とそれに費やす時間が学校側にないということも意味している。

だが、作文だけの試験は、試験としてもその後の教育方針としても意義深いと私は思っている。
体験が多く、文章力さえあれば、あとで伸ばせるからだ。
また、試験問題をサイエンス系とエッセイに分けて出題すれば、それぞれに対する考えを表現させることができるので、文理の評価軸も設定できる。
作文試験の審査料を上げることや問題を先に公開してプレゼン形式にするなど試験形式を変えて整理する必要もあるが、いずれにせよ、個人的には作文だけの入試が広まることを応援したい。

ほとんどの公立中高一貫校は、PISAの試験問題などを「モチーフ」に教育学者たちの考えた「よかれと思って作成された」謎に学習量の多い「パッケージ商品」を汎用的に処理することを求められる。
しかも入学後は、晴れてPISA型の学習が待ってるかと思いきや、ほとんどがこれまでの私立中よろしく大学受験の合格者が増えるようにするための体系数学先取り学習に終始して、それ以上のアイデアはない(当たり前か)
モチーフはモチーフであって、結局国内の現実に帳尻を合わせるための学校の生存戦略でしかなく、本来理想を掲げ邁進してもいいはずの、商売とは無縁でいても問題ないはずの教育でさえも、どれだけ大学進学するかの指標でしか判断基準を持ち合わせていない(そりゃそうか)

こういうことをいうと、周りから「現実が分かっていないピュアおじさん」と呼ばれる始末であるが、そんなんかまへん。

公立だし、一筋縄ではいかないかもしれないが、作文で入れてくれて、たくさんのアジア人がいるアシコクならきっと楽しいし、変なコンプレックスを持ってない好奇心のかたまりみたいな人になれるんじゃないかなぁとピュアおじさんは密かに期待してしまうのであった。

合格おめでとう。

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