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梅雨の古民家

日曜日の朝、ハラリを読んでいたら、もう出発の時間になる。

隣に娘を乗せて40分くらい車を走らせる。高速道路を下りて日の出町に入ると、窓を開け、山の匂いを嗅ぎながら30分。

月末、古民家でおこなわれる焚き火の会へ行く。

古民家に着くと、倉庫の前で子供が数人薪を割っていた。
広間では、早朝寒かったのか、薪ストーブがついていた。

前夜から原くんとレイくんと共に、5、6人の子供たちが滞在している。彼らは早朝4時半ごろ起床し、朝の学習時間を終えたところだった。

薪を片付けた子供たちが、川へ行く準備をする。これまでは僕が前夜からの「プチ合宿」を担当していたが、今は原くんとレイくんが担当している。
夜を共に越えた子供たちをはたから観察すると、彼らの頭の中に静寂があることに気づく。他にどう形容すればいいかわからないのだけど、そうとしか言いようがない静けさを彼らから感じる。余分な情報を抑え、何かに一体化できそうな感じ。ホモ・サピエンスが自然に溶け込み生活するような気配。ハラリの読みすぎか。
情報が多くなりすぎるのはやはり良くない。遊園地に行くときの躁状態も気持ちがいいんだけど、ここでの子供たちの状態はそれとは似ても似つかない。何かにワクワクしているんだけど、彼らの頭の中はいたって静かだ。都会では頭のなかパラダイス!な状態にはなりやすいが、こういった頭の静寂は得られにくい。だからこそ、彼らをここに連れてきている。


台所へ行って天井や床、鍋を確かめる。古民家の掃除を梅雨前にやったおかげであまりカビていない。

「今日はあんまりカビてませんでしたよ」と原くん。昨晩古民家を開場したのは原くんだった。
古民家にいると、カビと共に暮らすことになる。山にカビやコケが生えているとはいえ、コーティングされた木の上にカビが付着しているのは気分がいいものではない。古民家のカビとりは至上命題である。毎度使う度にカビが生えていないか、家中をくまなく調べる。

ぷぅーんと耳の近くで音がする。ハチだ。気になって古民家の周りと倉庫の周りを一周する。特に古民家の屋根を注意深くチェックする。
『ハチの巣のダミーが効果ありますね」とレイくん。
5月から夏にかけて蜂の巣が古民家の屋根に毎月のようにできている。昨年の夏合宿の後、アシナガバチの巣ができていた。大きくなってからでは自分たちではどうすることもできないので、早めに芽を摘むように心がけている。

数ヶ月前、ガムテープをぐるぐる巻きした塊を屋根にぶら下げた。これをつけていると蜂の巣が既にあると思って蜂が巣を作りにくいらしい。確かにそれ以来蜂の巣は見かけない。

それから二人に昨夜からの子供たちの様子を聞く。
よく手伝ってくれる子。学習に集中していた子。「ガス抜き」で時間を終えてしまった子。教師同士の観察結果を共有する。

二人は昨年から僕と松永さんとで夏合宿をおこなっている。今年もその予定だ。

原くんは今年5月に開催した「水上教室」をきっかけにカヌーインストラクターになった。
実際、水上教室で一番目を輝かせていたのは彼だった。それを伝えると、「確かに、カヌーは僕の性に合っているかもしれません」と言って、1ヶ月の間に毎週のようにカヌーのワークショップに参加し、インストラクターになることにした。古民家に来るまでは自然環境での教育活動をおこなってこなかったのだから、不思議なものだ。ここまで変化するのかという感じ。何より行動力が頼もしい。この行動力が生徒たちにも良い影響を与えている。

レイくんは古民家を僕個人が借りた時からいろいろお世話になっている。博愛主義で誰でも受け入れる包容力がある。あんまり他人を羨ましいと思うことがないが、彼の優しさには羨望する。

おそらく今年の合宿では、高校数学理科まで教えられる理系の原くんが生徒の質疑応答して、モンテッソーリ教師であるレイくんが学習にノれずにいる子をノせ、僕が彼らの活動の間を縫うように指導にまわりつつ全体を統括するというかたちで学習時間を乗り越えることになるだろう。

そして料理は三人とも好きだから、順番に担当しようと思っている。


お昼前に川へ行ったが、昼過ぎ雨が降り始めて、古民家に戻り、屋内でキャロムをしてこの日はお開き。

焚き火の会では、僕たち教師は無報酬で活動している。これは松永さんが成田ではじめた授業外で子供を焚き火に連れていく「サービス活動」を引き継ごうと思ったからでもあるが、僕個人としてはドイツの地方都市の奉仕活動の方法に共感しているというのも大きい。(これはある書籍がきっかけになった。この書籍についてもいつか書きたい)



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