見出し画像

RAEを理解した選手育成を

代表理事 春原太一

私は、いわきFC育成研究所オンラインサロンで育成について勉強させていただいております。
先日、ハンドボールにおけるRAEをテーマのセミナーに参加させていただきました。「ハンドボールの相対年齢効果とタレント発掘について」を院生コーチの森永さんからご教授いただきました。
過去に野球界というか、競技人口の多い競技ほどRAEの影響を受けやすい環境になることを学び、チームの運営において少しでも改善できるようにと心掛けている内容でもありました。
森永コーチからの、RAEが及ぼす心身の影響について指導者と保護者が理解することが大切であるということに強く共感しました。
昔を綴ったSNSの内容やチーム資料を引用して思い出しつつまとめてみようと思います。

RAEって?

相対年齢効果のことです。では、相対年齢効果とは?
ネットで検索すると「からだの発育発達が著しい若年期において,約 1 年もの発育期間の差 は身体的にも精神的にも差が生じることは容易に想像がつく. このように年齢や学年区分が起因して生じる様々な影響を「相対年齢効果(Relative Age Effect: RAE)」という.」と表記されます。

野球界におけるRAEについては、生まれ月の影響を受けやすいことなどを東京農大の勝亦陽一先生が啓蒙を続けてくださり、少しずつではありますが知られるところになってきたと思います。
勝亦先生のご発信とともに自分が参考にさせてもらっているのが日本陸連のプログラムです。日本陸連は選手の育成段階におけるRAEの問題点改善について早くから取り組まれています。
特に日本陸連HP「普及・育成・強化」の競技者育成プログラムを参考にさせていただき、前橋中央の入部説明にも引用させていただいております。
指導者はもとより、小・中学生の保護者の方にも目を通していただきたい内容であります。

野球に関するRAEの影響

まず最初に、ハンドボールの世界もそうでしたが、野球もサッカーも成人期を迎えた選手には、最終的な運動能力の差はほとんど見られなくなります。

しかしながら、2015年に始まったU-12侍ジャパンにおいては極端に早生まれの子どもが少なかったり、学童の全国大会に出場した選手の生まれ月をみると、早生まれの割合が低くなっています。
最終的に運動能力の差は見られなくなるのに…

これは小学期~高校期において、野球以外の多くの競技にも当てはまる問題なのだそうです。

プロ野球のドラフトにおいて高卒で指名される、つまりは18歳時点でセレクトされると4月~6月生まれの割合が高く、早生まれの割合が低くなります。


日本の場合、4月1日が学年を起算する日となり、4月2日生まれから翌年4月1日までの12ヶ月で区切られます。
この括りの中で生じる成長過程の差は、高校を卒業して成人期に入るまでは、なかなか埋まりにくいとされています。

一般的な成長過程の場合、小学高学年から中学低学年にかけて、一生のうちで最も成長の著しい時期となります。
そのような時期ですので相対的に身体成熟度が高く、発達した体格の大きい4~6月生まれの子に出場の機会が増え、早生まれの子はなかなか機会に恵まれなくなります。

RAEを問題視する流れ

先述した勝亦先生や日本陸連をはじめ、小・中学生の育成における、こうした生まれ月や学年区分に由来するRAEを問題視する声が上がるようになってきました。

NHK 2019年05月10日 (金)"早生まれ"の君へ ご一読ください。

同学年で早い時期に生まれた子ほど良い成績を収めやすく、その結果さらに次のチャンスを得ることにつながります。
試合への出場機会、プレッシャーのかかるポジションや打順への配置がなされていきます。
指導者や保護者の大人たちは、身体成熟の進む早い時期に生まれた子どもたちに期待したり依存したりする傾向になります。
それに対して子どもたちも、その期待に応えようとしたり結果を残そうと努力をするようになり、良い結果が出せるようになっていきます。

引いた眼で見てみると、周囲は自分より身体も経験値も格下が多いわけですので、結果も出やすくなることはあらかじめ予想できるように思います。

それに対して、早生まれの子どもたちはそうした機会に恵まれず、競争選抜の中で自然淘汰されていきます。
飛躍しますが、勝利至上主義・競争選抜での育成は難しいと実感しております。
指導者や保護者の大人が注意しないと早生まれというだけで機会にも恵まれず、自信を失い、前向きな気持ちを野球から得ることができなくなります。
子どものころに身についてしまった自信の無さや劣等感は、その後の野球への意欲や向き合い方にも大きく影響を及ぼします。

勝亦先生のご講演の際、野球の指導者は4月~6月生まれが多く、自身が野球で良い思いをしてきたから後進へその思いを伝えようとするのではないか?とおっしゃってました。
野球に限らず、大学の保健体育履修者に関して早生まれの学生は履修しない傾向にあることも教えていただきました。
小さいころの優越感や劣等感は成人期にまでも影響を及ぼすようですね。

そして、この流れはチーム運営や連盟などの運営にも影響を与えると考えます。
野球の場合、良い成績は「強い」を連想させ身体成熟が早くに進んだ大きい子どもたちとその保護者の目標チームになります。
毎年、結果の出やすい、大きい子どもたちが集まりやすい強豪チームの出来上がりです。
一般的なチームでも、身体の大きい子がたまたま集まった学年があると、強い学年が出来上がります。
その結果を見て、翌年には強いチームを求めて体の大きい子どもたちとその保護者が入ってきます。
すると、その2年後には強いチームが形成され2年間隔のループが出来上がります。
結局のところは身体成熟度合の高い子どもたちが集まると強いチームになるということだと思います。

そうなると周囲のチームには、その他の子どもたちが集まりチーム格差が広がります。
チーム格差が広がると、大きい子どもたちが集まるチームの周囲には格下の相手しか存在しなくなり、彼らの競技能力向上に影響を及ぼします。
チームを束ねる連盟自体のレベル低下にもつながり、今後の大きな課題だと考えております。

と、今まではこのような流れが多かったのですが、最近ではRAEや早熟・晩熟の問題などに目が向くご家庭も増えてきて「出場機会」や「他競技との両立」や「学習機会の確保」などを理由に前橋中央のようなチームでも選手が入るようになってきました。

早熟と晩熟についても

RAEの問題と併せて早熟と晩熟についても考えていかなければならないと思います。
一般的に、暦年齢(今何歳ですか?の年齢)に比べて心身の発達が早い場合を早熟、遅い場合を晩熟と言い、これは体の個性であって運動能力の差ではありません。
しかし、日本では小学校6年・中学校3年・高校3年と6・3・3の輪切り教育になるのと同じで、野球も同様に輪切り育成となり、発育発達の経過途中の段階で子どもたちを比較することが多く、その時点での運動能力に大きな違いが出てくるようになります。
そうなると身体成熟度合が極端に早い、時点ピークのような子どもが優位性を示し、優越感に後押しされて意気揚々と次のステージの選択に移ります。
時点ピークの子どもたちの栄光と挫折を取り上げた「消えた天才」という番組がありました。そこに登場する天才と称された方々が、口を揃えて「自分は早熟であった」と申しておりましたが、その通りだなぁと視聴していました。

早熟か晩熟かは、骨年齢(骨の発育スピードで判定する年齢)や身長最大発育年齢(身長が最も伸びた年齢から判定)から予測していることが多いようです。前橋中央では骨年齢はメディカルチェックの時にしか知ることができないので成長速度曲線をつけて身長最大発育年齢を用いるようにしています。
このような生物学年齢と言われる身体成熟度合から予測する年齢を野球には用いていかなければならないと考えています。
小・中学期は心身の発育が著しくなるとともに、大きなバラつきを見せる時期にもなります。その発育のスパート期となる思春期においては、同じ学年でも、身長最大発育年齢で4歳~6歳程度の年齢差が生じると言われています。
この時期において、身体成熟度合の高い早熟の選手が有利になりますが、成人期に近づくにつれて早熟と晩熟の差は解消されていくそうです。

RAEの影響を受けやすい子どもたちにおける問題と晩熟な子どもたちにも目を向けた育成とともに、早熟な子どもたちの才能を先食いしてしまったり、障害を負わせてしまったり、変なプライドを身に着けさせて成長を妨げたり、バーンアウトさせてしまわないようにしていかなければならないと考えます。

最後に

前橋中央では、入部説明会で保護者の方にREAや早熟・晩熟について理解を促し続けています。
入部してくれた子どもたちにはREAや早熟・晩熟について、より具体的な話をしていきます。
その結果、何も知らないで過ごすよりはずいぶんとマシな中学野球に取り組める子どもたちが多いと感じております。
現時点での周囲との体格差で悲観しなくて済むようになります。
逆に身長の伸びが鈍化するのが早く、身長予測の数値に近づいたり超えている選手は焦る気持ちを植え付けることができます。
身長が急激に伸びているときはのんびり取り組めています。
子どもたちも保護者の方も正しい成長期の理解がとても大切になってきます。

RAEが影響を与える競争選抜における問題、RAEの影響による継続率の差、RAEが成人期まで差を作る、早熟・晩熟の問題、このあたりは保護者の方は理解できても子どもたちにはなかなか理解できないことだと思います。
子どもの希望に影響を与えられるのは一番近くにいる保護者の方だと思います。
ともに学び、ご子息たちの成長を後押しできるようにしていきましょう。
こちらも子どもたちの身体成熟度合を考慮した育成ができるようにしていかなけるよう努めてまいります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?