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どうすることもできなくて、ただ見守るしかない。

自然の摂理というか、手を出して救ってあげられない。もどかしいけれど、見守るしかない。

わたしが利用している駅には、毎年たくさんのツバメがやってくる。

四月の中ごろにはひゅーんと姿を見せはじめ、あちらこちらに巣を作り始める。

あっという間に、いくつもの巣ができて、ツバメたちはそれぞれに産卵を始める。

中には、人間側の都合で巣作りをはじめたそばから壊されてしまった場所もある。

それでもツバメたちはたくましくて、また別の場所に巣を作っていた。駅の周りでは、わたしが知る限りでも六つの巣が作られていた。

朝、憂うつな気分で会社に向かいながらも、駅に着いてツバメの鳴き声を耳にすると、「あー、今日もツバメたちに会えたし、がんばろう」という気持ちにすらなる。

あちこちにフンをしているけれど、駅の掃除の係の方のおかげで、汚らしい印象もなく、とてもありがたい。

ある一ヶ所に作られている巣が、わたしは気がかりだった。そこは電気の配電盤のようなものがあり、コンセントが刺さっている。ツバメは、そのコンセントの上に、巣を作っていた。

昨年は、コンセントの近くは危ないという理由からか、作りはじめた時点で取り除かれてしまっていたような記憶があった。今年は平気なのだろうか? そう思ってずっと観察していた。

しかし、どうやら撤去されることなく、ほかの五つの巣と同じようにツバメがじっと座りこんで卵を温めはじめているように見えた。

しかし、週が明けて。駅に着くとギョッとした。不安を感じていた巣は、形を残したまま、元の位置から落ちてしまっていた。

地面に叩きつけられていたわけじゃなくて、分電盤の上に、ぎりぎりのバランスを保って乗っている状態だった。巣の中には、ヒナがいるのかどうかもわからない。ただ、白くてホワホワした毛が、少し散らばっているようにも見えた。

その巣の持ち主だと思われるツバメも、近くを飛び回っていたし、もとは巣があったコンセントの上に止まったりしていた。

蛇か何かに襲われたのだろうか? それとも、巣を作った場所が悪くて、ヒナが生まれて動き出したとたんに壊れてしまったのだろうか? ぱっと見ただけでは、わからなかった。

ほかの巣では、ヒナが孵化して、巣から一斉に顔をのぞかせている。親ツバメたちはひっきりなしに、ヒナたちに餌を届けにきている。

あの巣の中にいた子たちはどうなってしまったのだろう? 孵化していたのか、あと少しで孵化するところだったのかはわからない。けれど、いまはその巣のなかは空っぽで、残された羽毛だけがふよふよと風になびいている。そして、その巣の残骸から、親ツバメは飛び立とうとはしなかった。

わたしの利用している駅では、夏ごろまではツバメが飛び交っている。五月末に第一陣のヒナ鳥達が飛び立った後も、もう一度そこで産卵するツバメがいる。

ツバメの成長を、ただ見守るしかない。いつの間にか巣が壊れていても、それをどうすることもできない。ただ、いま育っているツバメたちは元気に空を飛んでほしい。その次の子たちも、その次も、来年も。

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