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まな板の上の鯉2020

「どうせオレのことなんて、どうでもいいんだよな」

乾いた笑いをかぶせながら、夫はこう続けた。

「週末の、ひろの検査が楽しみで仕方ないんだよ、あの先生は……」

なんてことはない。夫は市から送られてきた「がん検診」を受診し、結果を聞いてきたのだ。ありがたいことに何にも問題なく、「何にも問題を感じなければ、次回は5年後ですかね」と、夫の診断結果はさらっと、ぶっきらぼうな様子で言い渡されて終了した。

しかし、その週末に、わたしがその病院で胃カメラの検査を予約していたため、先生が「今度の土曜日は、奥様の胃の内視鏡検査ですからね。夕飯など早めに召し上がってください。よろしくお願いします」と、ニッコニコで話しかけられたのが気にかかるらしい。

夫の体に異常なかったのだから、別にいいじゃないかと思うのだけれど、夫としては「あの先生、胃カメラの検査するの、絶対楽しんでやってるよな」などとケチをつける。

街中にある、それほど大きな病院ではないのだけれど、胃と腸の内視鏡検査ができる。わたしはかれこれ4年ほど、毎年9月に胃の内視鏡検査を受けることになっている。

毎年憂鬱で仕方ない。今年の憂鬱度合いといえば、4日に最終回を迎えた「MIU404」のリアタイをせずに布団に入ったくらいだ。毎週楽しみに楽しみにしていたドラマだったし、最終回も放送時間に合わせて見たかった。が、「明日胃カメラかあ……」というどんよりとした気持ちが覆いかぶさっていて、のめり込んで見られない気がしたため、リアタイ視聴をやめたくらいだ。(多分、その判断は正しかったと思う)

わたし自身は憂鬱で仕方ないのだけれど、毎年7月の終わりとか8月くらいになると「そろそろ、毎年恒例の検査の時期ですが」と、受診時に先生から告げられる。

もうやりません! と突っぱねることもできるのだろうけれど、つっぱねて困ることが起きるのはわたし自身である。前日と、当日の終わるまではイヤーな気持ちを背負っている。それでも、内視鏡の前には血液検査も必須だし、結果的に健康診断だよなという気持ちでやっている。

かかりつけの先生は、普段は俄然ぶっきらぼうだ。けれど、胃の内視鏡の話をするときは饒舌になりちょっと楽しそうですらある。検査後に、胃の内部の写真を見せてくれる。わたしがスマホでその写真を撮りたいというと「このアングルがいいですよ、十二指腸側のもあります」といくつか胃の内部ブロマイドを出してくれて、確かに楽しそうではある。

もともと内科・消化器科が専門の先生だし、普段の問診ばかりより充実しているのかもしれない。

一昨年の比べると、胃炎の様子は良くなっておらず、また経過を見守りましょうということになった。また来年も、まな板の上の鯉の気分を味わうことになるのかと思うと、ほんのちょっと憂鬱になる。


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