奇妙な世界と、ムラカミハルキ。

はじめて村上春樹さんの小説を読んだのは、小学生の五年生か、六年生のころ。
私が住んでいた家の近くには、図書館の分室があって、週に一度は通っていたと思う。
そこは本当に小さな図書館で、大人が十人もいれば、ぎゅうぎゅうだと感じられるほどだった。

そのころの私はコバルト文庫という、10代の女の子をターゲットにしているであろう文庫にハマっていた。けれど、小さな図書館には、そのコバルト文庫のシリーズは冊数が少なかった。端から順に借りて行って、おおかた読み終えてしまった私は、次第に「大人が読んでいる本」に興味を持った。
そして、「この作家の名前、聞いたことあるなあ」ぐらいの単純な気持ちで、村上春樹さんの小説「TVピープル」のハードカバータイプの本を借りたのだった。大人が読んでいる本を借りて、ちょっとだけ、得意げな気持ちだった。

しかし、だ。
未だに鮮明に覚えているけれど、私にとっての村上春樹初体験は、恐怖そのもの、だった。
意気揚々と、借りて帰った本なのに。

「TVピープル」という短編を読んだことがない人もいるだろうから、お話自体の詳しい説明は書かないほうがいいかもしない。けれど、ザックリだけ説明させてもらうなら、
「僕の日常に、TVピープルが入り込んでくる。奇妙な音を立てながら」

これだけしか、私にはお伝えできない。とにかく、こんな話なのだ。
しかし、小学生の私には、ものすごく怖かった。「もしも、ここに出てくるTVピープルが私の周りにも現れたら……」という思いに囚われてしまった。短編も、「TVピープル」だけ読んだだけで、もう本を触ることすら怖くなっていた。夜になっても、頭の中で、いつもなら、図書館で借りた本を全部読み終えてから返却しにいくのに、もう家に置いておきたくなくもなかった。翌日、図書館が開く前に入れておける「返却ボックス」に、返しに行ったほどだった。

断わっておくけれど、「TVピープル」というお話自体は、ホラーでもなんでもない。大人になったいまならば、普通に読むこともできる。ただ、あの奇妙な空間が、比喩でもなんでもなくて、現実に現れたとしたら……と考えだけで背筋がヒヤリと寒くなる。

村上春樹さんの短編は、この「TVピープル」のような奇妙な視点が描かれているものが多いように感じる。その視点の裏側には、比喩として隠されたテーマがあるのだろう。テーマがなんとなく自分自身で解釈できるものもあれば、あんまりよく分からないストーリーもある。ただ、隠されたテーマが分からなくても、お話自体はおもしろく、つい何度も手にとってしまう。
読むたびに、背筋がヒヤリと冷たくなったとしても。

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