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冷めた湯の中で縮こまる

打ち合わせやら、何やらと仕事が忙しくなって少しホッとしている。忙しいと、その漢字が示す通り、心を亡くすことができる。

いま、少しでもぼんやりとする時間があると心の中は不安で満たされてしまうからだ。忙しく、集中して行える仕事が舞い込んだことは、ありがたかった。

今ひとつ、ハッキリとしていない状況の中で不安に悩まされる。なんだか、冷めた湯の中でじっとしているようだと思うのだ。

せまく、真っ直ぐには足を伸ばせない浴槽の中。肩までたっぷりと湯を入れて温まっていたはずなのに。
湯の外へ出るタイミングを完全に失ってしまし、いつのまにか湯は冷め始めている。湯を再び温め直す追い炊き機能なんかはなくて、ただただ湯は冷めていく。
思い切って湯から飛び出してしまえればいいのだけれど、まだ湯の中に浸っていたい。湯を少しでも動かせば、ひやりとした感触を味わうことになるため、身体はそろりとも動かしたくないのだ。

そうして身体を動かせないままに、じっと浴槽の中で冷えていく。温まるつもりで風呂に入ったと思っていたのに、身体は芯から冷え切ってしまった。

浴槽がもっともっと広くて、プールのようであったならば。もがいて、足をばたつかせながらでも泳ぐことだってできただろう。
けれどもその浴槽は膝や肘を折り曲げて、縮こまっていなければ入ってはいられないのだ。
そうして身も心も強張って身動きが取れなくなっていくのだ。

ある意味では、不安に身をたゆたえている方が楽なのかも知れない。不安の中に身体を委ね、何ひとつ抗おうとはしない。仕方ないと諦めて、ただ時間だけが過ぎていく。

不安を打破するためには、冷め切った浴槽から立ち上がり、寒いと分かりきっている空気の中に裸で出ていかなくちゃいけない。
だけど、それしか方法などないのだろう。

冷め切った湯で満たされた、浴槽の中で沈み込み、二度と動き出せなくなる前に。

#エッセイ
#日記
#ポエム


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