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わが家に増殖するピンクのエビ
数か月前、夫に「うちにストローある?」とたずねてきた。
確かずいぶん前にコンビニでもらったものがあるような、無いような……。そんなふうに答えると、夫は「あ、曲がらないタイプのやつか。じゃあ要らない」とスッと興味を失った様子だった。
曲がるストロー? うちではストローなんて使わないし、ましてや曲がるタイプのものは、あまり巷では見かけない。
何で曲がるストローが必要なのか、気にはなった。けれど、わたしはその時改めて質問することもなかった。まあ、どこかで見つけたら、とっておいてあげよう。そのくらいの気持ちでいた。
少し経ってから、ファストフードだったか、何だったかは覚えていないのだけれど曲がるストローを入手した。曲がるストローだから欲しい、と思ったわけでもなく、テイクアウトか何かで偶然みつかったのだ。
「なあ、曲がるストロー欲しいって言ってなかった? 一本あるんやけど、いる?」夫は慌てて近寄ってきたものの、ちょっとがっかりした様子だった。
「色がついてるほうがいいんだよなあ。できればピンクとか」その曲がるストローは白く、まあよくあるようなタイプのものだ。むしろピンク色の曲がるストローなんて、見かけたことすらない。白とピンクのストライプとか、白と赤のストライプとかでもいいと、夫は理想的な色を細かく指定しはじめた。
「何のためにそんな色付きの曲がるストローが欲しいん?」「エビをつくりたいんだよねえ~」……会話がいまいち噛み合わない。
なにやら禅問答のようなやりとりの結果、「曲がるストローを使って、エビの模型(おもちゃ)を作りたい」ということが判明した。そっかそっか、エビか……。夫と知り合って20年、一緒に暮らして10年が過ぎたが、まだまだ何を考えているか全然分からないなあ……。それとも、分からないから、おもしろいのだろうか? そのどちらもが正解かもしれない。
その後、夫はストローの話をしなくなったので、エビに向けられた情熱が冷めたのかなあと思っていた。
しかし。先日、仕事を終えて帰宅すると「みてみて~」とかなり嬉しそうに手の平を差し出してきた。そこには紛れもない、エビの姿が……。
「ピンク色の曲がるストローを見つけたから、思わず買っちゃったよー」
悔しいけれど、たしかにエビに見える。うまくできてるねと感心してしまった。ただ、その日から時間があると、夫はエビをつくり始めた。一日に一匹ずつピンクのエビは増えている。
わが家のピンクのストローがなくなるまで、作り続けるつもりだろうか? 「もっと本物っぽくしたいんだよなあ」
エビに対する情熱が、いつか冷める日が来るといいのだけれど。
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